本文・松原貴実 写真・吉田宗彦
日立サンロッカーズ東京とトヨタアルバルク東京の顔合わせとなったNBLプレイオフ・セミファイナルは1勝1敗で星を分け、3戦目にもつれ込む激闘となった。
レギュラーシーズン45勝9敗で堂々リーグトップの成績を残した日立東京は当然のごとく優勝候補最右翼と目されていたが、リーグ後半23連勝でイースタンカンファレンス3位に躍り出たトヨタ東京には勢いがあった。第1戦、前半を32-36とリードされたトヨタ東京は3Q立ち上がりから激しいディフェンスで日立東京のオフェンスリズムを狂わせると一気呵成に攻め立て逆転に成功。80-71で大きな1勝をもぎ取った。
しかし、続く2戦目は前日と真逆の展開となる。前半6点のビハインドを背負った日立は3Q、#42ジョシュ・ハイトベルトの連続得点で猛追すると、4Q残り2分、#7伊藤駿の3Pシュートで63-63の同点に追いつく。この伊藤の1本で流れを引き寄せた日立は#50アイラ・ブラウン、#15竹内譲次がゴール下で連続得点し、73-67でトヨタを突き放した。
そして、第3戦。前半を34-34の同点で折り返したゲームは、3Q#24田中大貴の3P、#3ジェフ、ギブスの連続シュートで抜け出したトヨタが一時は11点のリードを奪う。が、日立も残り1分からブラウン、#24広瀬健太が奮闘し、5点差(61-56)まで詰め寄って最終クォーターへ。どちらが先に波をつかむかが注目された4Q、日立は7分半に広瀬の3Pで65-62と迫るも後が続かず。#35伊藤大司の3P、#4マイケル・パーカーのゴール下シュートで得点を重ねたトヨタ東京が着実にリードを広げ81-72で(JBL時代の2011-2012シーズン以来)3年ぶりファイナル進出のチケットを手にした。
日立が感じていた『1位』のプレッシャー
「トヨタの方がいいチームだったことは認めないわけにはいきません」
敗戦後、日立のキャプテン竹内が最初に口にしたのはその一言、目にはうっすら涙がにじんだ。
「1戦目は後半からマンツーマンと2種類のゾーンを組み合わせてきたトヨタのディフェンスにアジャストできなかったのが敗因の1つでしたが、昨日はアキ(#10チェンバース)や伊藤の若手が頼もしい働きをしてくれたおかげで勝つことができました。でも、トヨタのバスケットはとてもシステマチックで、ジョシュに対してはWチームで(守りに)来るんですが、今までならワンドリブルしてから(Wチームに)来ていたのが、今日はもっと早い段階で動いて、それに対してうちは後手に回ってしまいました。ジョシュの負担を軽くするためにも僕がもっと頑張らなければいけなかったのに、このシリーズは全然自分の仕事ができなくて申し訳ない気持ちでいっぱいです」
昨季は竹内がケガで出遅れたことも響き、18勝36敗という泥沼のシーズンを味わったが、マイケル・オルソン氏がヘッドコーチに就任し、メンバーも大きく入れ替わった『新生日立サンロッカーズ東京』はシーズンスタートから白星街道を驀進。新年の全日本総合選手権大会(オールジャパン)で悲願の初優勝を成し遂げた後も順調に勝ち星を積み重ね、東西カンファレンス合わせてトップの成績(45勝9敗)でレギュラーシーズンを終えた。
「それでも…」と竹内は言う。「いや、それだからこそ苦しいこともありました」
「去年はとにかく一戦一戦を懸命に戦うことしか頭になく、それだけしか考えていなかったシーズンでした。でも、今シーズンはリーグ1位のチームとして目指すのは優勝のみ。プレイオフは1位のチームとして絶対に勝たなくてはならない、最後まで絶対負けられないというプレッシャーも大きかったです。でも、今日、目指していた道が突然閉ざされてしまった、チームの誰も考えていなかったこんな終わり方をしてしまった、(負けが続いた)去年より、今日の方がずっとつらいです」
3位に躍り出たトヨタの勢い
ファイナル進出を決めたトヨタ東京もまた今シーズンメンバーの入れ替わりが目立った。そのためかリーグ前半戦には足踏み状態が続いたが、帰化したマイケル・パーカーがチームに馴染み、ルーキー田中大貴の成長が光った後半戦は破竹の23連勝をマークした。
「これまでプレータイムがほとんどなかった二ノ宮(#8康平)がガードとして存在感を示してくれたことも大きい」と、ドナルド・ベックヘッドコーチ。レギュラーシーズン最後の最後で3位に躍り出た『チームの勢い』は1位の日立東京を上回っていたかもしれない。
「レギュラーシーズン最後の日立戦(4月29日)はすでに1位が決まっていた日立と3位浮上がかかっていたうちとではモチベーションに差があったかもしれませんが、それでもケガしたジェフ(ギブス)抜きで勝てた(75-63)ことは大きかったと思います。プレイオフに向けて、日立に何等かのマイナス要素を与えられたのではないかと」と、語る#13菊地祥平は武器となる強いフィジカルでチームに貢献する。
「去年は移籍1年目ということもあり、トヨタのバスケットを知ることでいっぱいいっぱいでした。そのせいもあり、自分の色をあまり出せず優等生的プレイしかできなかったと思います。でも、今年はメンバーもガラッと変わって、その中で自分のワイルドさやガムシャラ感をもっと出していこうと、それは心がけていることの1つです。それともう1つは(チームの中で)ベテランの部類に入る選手、外国人ならジェフ、日本人なら僕と正中(#7岳城)がチームをしっかりまとめていくということ。コートに出ている時はもちろんですが、たとえ試合に出られなくてもベンチで一番声を出していこう、そういう役割を果たそう、俺たちがチームの土台になろうと、それはずっと話してきたことです」
そんなベテラン選手たちに牽引されて若い選手たちは伸びていく。このセミファイナル3連戦で平均31分出場し、平均16得点の活躍を見せた田中大貴はその筆頭だ。
「コーチからは最低でも15点は取るように言われています。空いたら打つ、スペースがあったらドライブする、毎試合、積極的にアタックする気持ちで臨んでいます。去年アーリーエントリーで入ったこともあり、チームの中の自分の仕事もわかってきたし慣れてもきました。シーズン最初のころよりいい判断ができるようになったし、いいプレイができていると思います。積極的にやるのはディフェンスも同じことで、今回はアキ(チェンバース)とマッチアップしましたが、なんていうか彼は他の選手とはまた違ったタイプで、このタイミングで“?”というところで打ってくるし、それが入ると本人もチームも乗ってくるんですね。日立の勢いを作るか勢いを殺すか、その鍵を握っている選手だと思っていたので、それを意識して頑張りました」
初めてのプレイオフファイナルの舞台に立つことは今から楽しみで「わくわくしている」と言う。
「対戦するアイシン(シーホース三河)にはレギュラーシーズン勝ち越していますし悪いイメージはありません。もちろんプレイオフはまた別物の舞台だろうし、アイシンには金丸(#14晃輔)さんとかすごいシューターもいますが、金丸さんは1対1でやってくるというより、味方のスクリーンを使って打ってくるケースが多いので、そこはうちもしっかりコミュニケーションをとって守らなきゃいけないと思っています。ここまで来たら力的にはどっちが勝ってもおかしくないと思うし、集中力を切らさず1つひとつ積み重ねていくしかありません。個人的にはオールジャパンで不甲斐ないプレイしかできずとても悔しい思いをしたので、それを取り返すのはこのファイナルしかないと思っています。優勝に貢献できるよう頑張ります」
『頂上決戦』のスタートは間近
2年ぶりのプレイオフファイナルのステージに立つアイシンは、セミファイナルでリンク栃木ブレックスと接戦を演じ、1戦目71-69、2戦目を68-63と僅差で競り勝ってきた。シューター金丸の得点力が光るが、ベテラン#3柏木真介を中心に#0橋本竜馬、#8喜多川修平といった粘り強いプレイが身上のガード陣、独特のリズムで相手を翻弄する#6比江島慎、試合巧者#32桜木ジェイアールと、各ポジションに安定感があるのが強みだ。オールジャパンでは千葉ジェッツに敗れ初戦で姿を消す屈辱を味わっただけに、それをリーグ優勝晴らしたいという選手たちの思いも強いに違いない。
『安定』のアイシンと『勢い』のトヨタ、今シーズンの王者の座につくのは果たしてどちらのチームか。注目の頂上決戦は今週末5月23日にスタートを切る。