Text & Photo by F.MIKAMI
今週末からNBLのプレイオフが始まる。レギュラーシーズンの54試合を終え、上位8チームの選手たちは休む間もなく、さらに熾烈をきわめる戦いの場へとその身を投じる。
プレイオフに進んだ8チームの中で、最も波に乗っているのはトヨタ自動車アルバルク東京だろう。なにせ2月15日のアイシンシーホース三河戦以降、レギュラーシーズン最終戦となったリンク栃木ブレックス戦まで、負けなしの23連勝を果たしているのだ。
ルーキーながら、チームの主力として欠かせない存在になっている田中大貴がその要因を語る。
「シーズン序盤はかみ合うところとそうでないところがあって、負けも経験しました。それが今ではお互いのやりたいことを徐々にわかるようになってきたんです。もちろん(マイケル・)パーカーが帰化して1Qから出られることも大きな要因だけど、それでもやっぱりシーズン終盤に近づいてきて、みんなが危機感を持って、同じ方向を見てバスケットをやれていることが一番だと思います」
確かにトヨタ東京はコートとベンチとが一体化しているように見える。「そりゃ21連勝もすれば(取材は21連勝を決めた日立サンロッカーズ東京戦後)バスケットが楽しいし、チームメイトもバスケットを楽しいと思っているはずですよ」と田中は言うが、この一体化した力は短期決戦のプレイオフで大きな武器となる。
加えて、田中の積極的にゴールへ向かう姿勢も見逃せない。田中自身は「空いたら打つ。行けると思ったら行く」とシンプルな発想で攻めているそうだが、それでもシュートミスや、ディフェンスの執拗なマークにも嫌がることなく、ゲームを通して、その姿勢を貫いているのが印象的だ。
「それが今の課題だし、毎試合20得点近くを取るジェフ(・ギブス)がいない分、いつもよりは攻めるようにしています」
チームトップの1試合平均16.3得点をあげていたギブスが頬骨の骨折で戦線離脱をしたことで、より自分がやらなければいけないという責任感が芽生えてきたわけだ。ルーキーにそれを求めることは負担だという声もあるが、田中自身はそれを苦と思っていない。
「今日の日立東京戦でも、最後の場面で自分がトップでピックを使うプレイをコールされたってことは(チームメイトが)自分を信頼してくれているのだと思うし、自分もそれがキツイと思っているわけではありません。逆にそこで自分が決めるべきだと思っているし、それに対する責任も持っています」
田中はそう言って、しっかりと前を向く。
そのトヨタ東京に最後の最後で順位をひっくり返された昨年度のNBLチャンピオン、東芝ブレイブサンダース神奈川は、最後までケガに泣かされたシーズンとなった。シーズン前半にポイントガードの篠山竜青を左脛骨の骨折で失うと、続くポイントガードの山下泰弘も肩を負傷、最後のトヨタ東京との直接対決でも栗原貴宏、長谷川技が相次いで負傷退場してしまった。
また話は前後するが、オールラウンダーのセドリック・ボーズマンと、得点ランキングでリーグ1位を走っていたニック・ファジーカスまでもがシーズン終盤に左足中足骨の疲労骨折で帰国してしまった。チームの核ともいうべきファジーカスとボーズマンを失った東芝神奈川は、そのバスケットスタイルを変えざるを得ない。
「平面でのディフェンスを頑張って、全員でリバウンドに行くことを40分続けることが、今の僕たちが勝つための唯一の方法だと思うんです。それを40分できなかったのが、この結果だと思います」
トヨタ東京に逆転負けを喫し、勝敗数で並ばれたゲームのあとに辻直人は、そう言っている。
「体力的に相当きついところがありました。ニックたちがいない分、攻守ともにいつもの倍以上動かなければいけないから。しんどくなるのはわかっていたんですけど、やっぱりそういう展開になってしまって…」
それでもプレイオフはファジーカスたちのケガの完治を待ってくれない。やるべきことは、苦しくても40分間走り続けることだ。サイズのなさをフィジカルコンタクトで少しでもカバーし、確率のよいシュートを沈めていくしかない。理想論であることは重々承知しているが、彼らが“連覇”を諦めていないのであればそれを実行するしかない。
そこにはファジーカスらとともにチームの核となっていたシューター・辻の活躍は欠かせない。彼へのマークは一層厳しくなるだろうが、それを上回るパフォーマンスをすることが彼自身のステップアップにつながる。辻もそれを認めている。
「自分自身ワンステップ上のレベルに上がらないといけないと思っています。今年のプレイオフはそのためのいい機会だと思っているので、チームのこともしっかりと考えながら、自分のために…自分のスキルアップのためにもしっかり戦っていきたいと思っています」
苦境に立たされてはいるが、辻の目はまだ死んでいない。
レギュラーシーズン終了の1週間後に始まるプレイオフ。日程的にはつながっているが、中身は別物である。各チームともレギュラーシーズンの対戦成績はいったん頭から切り離し、新たな対策を講じなければならない。つまりレギュラーシーズンの順位はさほど当てにならないということである。
ルーキーながらトヨタ東京のエースの座を自ら背負おうとする田中大貴、ケガの連鎖を受けることなく東芝神奈川を引っ張り、さらなるステップアップを目指す辻直人。若き日本代表たちはカンファレンス3位、4位(ワイルドカード上位チーム)から頂点を目指す――。