2月12日開催のトヨタ・バスケットボール・アカデミー。第4回目となる今回のスピーカーはトヨタ自動車アルバルク東京のアシスタントコーチの伊藤拓摩氏とトレーナーの荒尾裕文氏。
セミナーの前半を担当した伊藤拓摩アシスタントコーチ(AC)は、アルバルクがドナルド・ベックヘッドコーチ体制に入った2010年夏からの取り組みや試行錯誤を惜しげもなく紹介。4年にも渡る取り組み、駆け足ではあったが、ただの羅列に終わらせない伊藤ACのプレゼンテーション能力が光った。
テーマや課題の側面から導き出された指導要点や練習メニューは、一貫性を保ちながら選手の想像力を活かす面でも考え抜かれたものだと参加者全員が疑わないだろう。選手に対する言葉の投げかけ、指導は常にその先にゲームを見据えており、ベックHCの戦術も周到している。
後半から代わって知識を共有してくれた荒尾トレーナーはトヨタ在籍19年。6度のHC交代を見てきた強者。長いキャリアと経験に裏打ちされた、知識だけでない柔軟な知恵を参加者にシェアしてくれたと感ずる。
2人に共通していたのは、どんな取り組みもゲーム(あえて試合ではなくゲームとしておこう)でパフォーマンスを発揮出来なければ意味がないという事。荒尾トレーナーがあげていた例が解り易い。ベンチプレスを100kgあげる選手と60kgをあげる選手。
「いくら100kgあげてもバスケットボールが上手くないと60kgの選手には勝てない 」
ボディビルダーが最強のバスケ選手でないのは自明の理。その上で、「同じバスケの能力があるなら100kgあげられた方が良い」と付け足していた。
加えて荒尾トレーナーの言葉で印象的だったのは、「バスケは全力でやるスポーツではない」。この言葉を聞いて何を感じるだろうか。「全力でスピードを出しすぎると、自分を制御出来ない」のだと言う。実は前半部分で伊藤ACも同じような言葉を口にした。“GOOD SPEED”だ。彼の定義によるとGOOD SPEEDはバランスを保ち、必要なら方向転換が可能で、ストップも出来る。そして何より周りを“見る”事が出来きているスピードを言う。基本的には英語で選手を指導するという伊藤ACらしい素晴らしいキーワードが聞けた。
選手のGOOD SPEED習得を助ける為に荒尾ACはあえて練習の中に想定外の状況、カオスを作り、トレーナーはGOOD SPEEDの可能性を最大化させるトレーニングを指導しているのだ。
日本のトップレベルにおいて、やっていて欲しい、やらなくてはいけない分業がまさにここで行われているのだが、ミニバス、中高、大学の現場では専門家によるサポートはここまで望めないのが現状。では何を学ぶべきか。伊藤AC、荒尾トレーナー共に明日からでも現場で生かせるドリルを提供してくれた事は言うまでもないが、何よりも指導していく上での縦軸と横軸のバランス感覚、ここにある。
相互コミュニケーションを訴えるベックHCのアカデミーにて得られる気付きはきっと現場で分業とリーダーをかねる“スーパーコーチ”達の強い味方になるはずだ。結局のところどんなアメコミヒーローにも弱点はあるのだから、参加者こそが日本のアベンジャーズ!
第5回セミナー開催スケジュール
2014年3月中旬頃を予定 18:40受付開始、19:00スタート
場所:トヨタ府中スポーツセンター
(住所:東京都府中市北山町3-5-1トヨタスポーツセンター)
参加費:2500円
申し込み:toyotabasketballacademy@gmail.com までお名前と参加人数を明記。
文・佐々木クリス(NBAアナリスト/Watch&C Basketball Academyコーチ)
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