「いえ、自分はまだまだできると思っています」
NBLプレイオフのイースタン・カンファレンス・セミファイナル。トヨタ自動車アルバルク東京がリンク栃木ブレックスを破って、カンファレンス・ファイナルに進出を決めた第3戦で、ベンチスタートながら10得点を挙げたトヨタ東京の田中大貴は、「いいプレイができたと思っている?」という記者の質問にそう答えた。
田中は宇都直樹、張本天傑とともに「アーリーエントリー制度」で、大学の卒業を待たずにNBLデビューを果たした新卒プレイヤーだ。つまりこれまでであればコートの外で見守ることしかできなかったプレイヤーが、プレイオフの舞台に立ち、チームの勝利に貢献したのである。それでいて、自分の力はこんなものじゃない、まだまだできるんだと言う。
ではそれがビッグマウスかといえば、さにあらず。田中の発言は自信に満ちている。県立長崎西高校から東海大学に進学し、大学在学中に日本代表入りを果たした自信。才能のみに過信することなく、厳しい練習に耐え、努力を重ね、磨き上げた自分の実力を信じる、文字どおりの“自信”である。日本人はとかく謙虚であることが美徳だという。「自分なんてまだまだですよ」。そういえば可愛げがあるようにも思われる。だが謙虚さも度を越してしまうと、ネガティブな、自信のなさにつながりかねない。同じ「まだまだ」でも、「もっとできるんだ」という田中の発言は自信の表れとともに、ここで立ち止まっている場合じゃないという未来への強い意志でもある。
リンク栃木との第3戦、トヨタ東京のドナルド・ベックヘッドコーチは、2度、田中をコートに送り込んでいる。1度目は第2ピリオド残り6分3秒の場面。トヨタ東京が1点ビハインドのときだ。そして2度目は第4ピリオドの開始時、【46-46】の同点の場面である。ともに競った展開のなかでの投入だが、後者はあと10分で決着がつく、負ければシーズンが終わるというクライマックスの時間帯である。前日の第2戦ではまったく起用しなかった田中を起用した意図について、ベックヘッドコーチは「第3ピリオドだけを見れば【10-7】と得点が停滞していた。だから第4ピリオドは得点が必要と判断して、オフェンス力のあるダイキを投入したんだ」と言っている。