バスケットボールは原則的に身体接触が認められていない。ファウルである。しかし【28メートル×15メートル】というけっして広くないコートに ── しかもゲームの大半がおこなわれているのはその半分 ── 攻守あわせて10人の選手がひしめき合えば、どうしても身体接触は起きてしまう。審判もプレイに支障が出るか、攻守のどちらかに責任があると認めた場合にしかファウルを宣告しない。かなり大胆かつ大雑把なルール解説だが、実際のゲームはそのように進められている。
NBLプレイオフのカンファレンス・セミファイナルが5月3日から始まっている。ウェスタン・カンファレンスではアイシンシーホース三河が三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋を2連勝で下し、カンファレンス・ファイナルへの進出を決めた。一方のイースタン・カンファレンスは、初戦をトヨタ自動車アルバルク東京が制し、第2戦はリンク栃木ブレックスが勝利を奪い返している。1勝1敗。決着は5月5日の第3戦へともつれこんだ。
そのイースタン・カンファレンスのセミファイナルで、リンク栃木の田臥勇太は2試合とも身体接触のある守り方 ── よりバスケット的な表現をすると「フィジカルなディフェンス」で守られている。田臥を守るトヨタの岡田優介は「すべての起点は田臥さん。彼がリンク栃木の『心臓』だと思っているので、彼をどれだけ抑えられるかがポイントになると思っています」と言う。岡田だけではない。スクリーンなどで田臥を守る選手が変わっても、今度はその選手が執拗にフィジカルなディフェンスを仕掛けていく。田臥がボールを持っているときはもちろん、持っていないときでさえ、である。
田臥としては当然フラストレーションも溜まってくるだろうし、より激しい身体接触を受けたときなどは、エキサイトして相手に詰め寄るシーンもあった。童顔のせいか柔和に見える田臥だが、その実、勝負に関してはかなり熱いものを持っており、それを外に出すこともまったく厭わない。
しかし、そうした熱いものを表に出しながら、それを引きずることなく、次のプレイを進めるあたり、やはり並の選手ではない。田臥はトヨタ自動車のフィジカルなマークについて「そこは駆け引きだと思う。自分の問題もあると思うけど、チームとして対応しようと思っています」と言っている。熱くはなるが、あくまでも冷静に対応しようというわけだ。
プレイオフまでくれば「気持ちで戦う部分が大きい」と田臥は言う。ファウルが4つとなり、ベンチに下がらざるを得なくなったときでも「コートにいる一人ひとりが『自分がやってやろう』という気持ちを出して戦っていたので、これは明日につながるゲームだな」と、田臥は感じていた。たとえ最後までフィジカルに守られようとも全員の気持ちが折れず、冷静にプレイができれば勝機は必ずある。そう信じているのだ。
むろんトヨタ自動車もこのままずるずると連敗するつもりはない。
「修正するところはありますが、ただ第3戦になればウチが有利だと思っています。じわりじわりとハードにプレッシャーをかけ続けたことは必ず明日に響いてくるはず。そう思って、最後までフィジカルに守り続けましたから」。
岡田の言葉が不敵にも感じられ、また第3戦を楽しませてくれるようにも聞こえた。
身体接触が認められていないスポーツで起こる身体接触。そのなかで交差する放熱と冷静。「こどもの日」におこなわれる第3戦は、そんなところにも注目したい。
NBL プレーオフ カンファレンスセミファイナル 第3戦
5月5日(月)15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
三上太