あと1つ。あと1つ勝てば、4年ぶりにプレイオフへ進出できるのに、その“1つを生み出す”ことが、なんと難しいことか。リンク栃木ブレックスの選手たちは、改めてそれを感じたに違いない。
NBLのレギュラーシーズン最終週2試合を残して、リンク栃木ブレックスは30勝22敗、すぐ下に位置するレバンガ北海道が29勝23敗。星の差はわずかに1つ。つまりどちらにもプレイオフ進出の芽はあったわけだが、それでもリンク栃木ブレックスのほうが有利ではあった。両チーム間のゴールアベレージを見たとき、リンク栃木ブレックスが1つでも勝てば、たとえ勝敗数でレバンガ北海道に並ばれたとしても順位をひっくり返されることはない。あと1つ勝てば――
そんな状況下でリンク栃木ブレックスは、最終週の対千葉ジェッツ第1戦を落としてしまう。確かに千葉ジェッツはレジー・ゲーリーヘッドコーチを中心に、しっかりとまとまったチームである。リンク栃木ブレックスにしてみれば、相性もさほど良くはない(結果的に6試合で3勝3敗)。それでも現時点の順位を考えると――けっして順位だけで勝敗は語れないのだが、それでもプレイオフまであと1勝のイースタンカンファレンス3位のリンク栃木ブレックスと、プレイオフの芽がなくなった同6位の千葉ジェッツの対戦となれば、リンク栃木ブレックスが連敗することはないだろうと思われていた。いや、実際に連敗をせずに、日曜日(4月27日)におこなわれた最終戦で勝って、4年ぶりのプレイオフ進出を決めたのだが、前日の第1戦に決めると思っていたファンも多かったはずだ。
そうならなかったのは「追われる立場」だったからではないだろうか。カンファレンス内の順位は3位だったものの、ことプレイオフ争いにかけてはその当落線上を一歩リードしたところに位置し、そのプレッシャーの中で1つを勝つことは簡単でない。加えて、最終週はホームである栃木・宇都宮でのゲーム。その最終戦には今シーズン最多の2972人のファンが応援に駆け付けてくれたように、それはとてつもなく大きな力にもなる一方で、「このファンの前では負けられない」という気負いも生じたのではないか。
それでも勝つのが真に強いチームだとすれば、リンク栃木ブレックスはまだそこに至っていない。だが最終戦を勝利で終えて、選手1人ひとりがファンへ挨拶する際、ベテランの竹田謙の発した言葉が印象的だった。
「プレイオフまで1週間ですが、ボクたちはまだまだ成長できます。しっかりと準備をして臨みたいと思います」
約10日後に始まるプレイオフ・カンファレンスセミファイナルに向けて調整をしていくのではなく、たとえ短い期間であっても、まだまだ成長してやろうというのだ。なんというあくなき向上心! 裏を返せば、その成長の余地こそが、4月27日時点でのリンク栃木ブレックスの弱さ――プレッシャーの中ですんなりと1つを勝ち切れなかった弱さであり、ホームで負けられないという気負いを払しょくできなかった弱さの正体でもあった。
むろん技術的なこと、戦術的なこともあるが、3戦2先勝方式のプレイオフ・カンファレンスセミファイナルを勝ち抜くにはそうしたメンタルの強さも必要になってくる。そこではレギュラーシーズン最終戦の、本当に負けられなかった一戦を制した強さが生きてくる。田臥勇太は最終戦の勝利についてこう言っている。
「北海道での2戦目や、昨日の試合(千葉ジェッツとの第1戦)負けてしまったけど、負け試合からの反省を1人ひとりが考えて、次の試合に挑めていることは先につながる感触を持っています」
たとえ負けたとしても、しっかりと切り替えて、次の勝利に備える。そんな力がチーム内に芽生えてきていることを田臥も感じているようだ。それも短期決戦のプレイオフを勝ち抜くために必要な要素である。トヨタ自動車アルバルク東京とのプレイオフ・カンファレンスセミファイナルに向けて、田臥が言う。
「我々はチャレンジャーですし、トヨタにはシーズンを通して1つしか勝ってない。しかも最終戦ではブザービーターで負けるなど、悔しさしか残っていないので、その悔しさを晴らすために第1戦から挑んでいきたいと思います」
追われる者から追う者へ――生みの苦しみを乗り越えたチャレンジャー、リンク栃木ブレックスの逆襲が始まる。
NBLプレーオフ カンファレンスセミファイナル
- GAME1/5月3日(土)
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館 - GAME2/5月4日(日)
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館 - GAME3/5月5日(月)※3戦2先勝方式のため開催しない場合あり
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館
三上 太