次に続く日本人NBA選手がいなかった寂しさを先駆者が吐露
日本人NBA選手の第一人者であるワッツ・ミサカさん。その後57年の時を経て、2005年に田臥勇太選手(リンク栃木)がNBAのコートに立った。あれから8年、未だに3番目の選手は現れず、今ではNBA選手を夢見る者もいないのかもしれない。そんな中、川村の挑戦を喜ぶのは、先駆者である田臥選手だ。「行って来いよ。お前ならばやれるよ、という後押しはありました。でも、なんかすごくうれしそうでしたね。4年前にチャレンジした時にロスで一緒にご飯を食べたのですが、その時にも、オレがチャレンジした後に、誰も続くヤツがいなかったのがすごく寂しい、と言ってたんですよ。そして、お前がこうしてアメリカに出て来てくれたことが本当にうれしい、とも言っていて、だからこそ次の日本人NBA選手が出て来て欲しいことを彼自身も望んでいるんだと思いますよ」
川村もまた、今回の挑戦へ向けて、「田臥勇太選手がやってくれた後に、間が空いてしまったことが日本のバスケ界にとっても足踏み状態になってしまったわけです。オレも4年前にチャレンジして、そこから時間が空いてしまいましたが、それなりに日本で経験を積みましたし、今、渡米して試す時期だと思って行動に移しました。川村ができるんだったらオレもやれるんじゃねぇの?と言うのをみんなにも分かって欲しいですね」とも話している。
後輩のため、日本のためとも取れる言葉を聞き、あらためて今回のNBA挑戦は誰のためであり、何のためなのだろうか?
「もちろん自分のキャリアのためもそうですし、バスケットボール選手としていられる時間も限られているので、そこをいかに有意義に過ごすか。そして、いかに自分が楽しんでバスケットボール選手を去る時を迎えられるかも、決めるのは自分自身。自分が成功することによって、日本のバスケ界に刺激を与えることもできるかもしれません。小さな刺激ではありますが、自分がトライすることで下の世代や同じプレイヤーたちのビジョンを広げられるようになれば良いと思っています」
リンク栃木を去ることを知らされたファンの反応は温かかったと言う。「最初は、辞めたらもうちょっと厳しいことを言われると思っていたんです。悪い方に考えていましたが、多くの人が声をかけてくれて、みんなが背中を押してくれて、すごいうれしかったです」
夢に向かった珍道中のはじまり、はじまり
すでにキャンプ地フェニックスに着いた鴨志田氏と川村の共同生活が始まった。バスケット以外でも新たなるチャレンジが待っている。自炊など身の回りのことも自分でやらなければいけない。「これまでのオレにそんなことする生活リズムが無かったわけじゃないですか。自分で何でもやらなければいけないということが無かった。その新しいことにチャレンジすることが楽しみです。鴨志田さんと一緒にスーパーに行くのが楽しみです。水から何から生活必需品を買うことからスタートします。もう楽しみでしかない!」
成田を発った翌朝、鴨志田氏から一通のメールが届いた。「家にはブライアン・クック(ワシントン・ウィザーズ)とアダム トレーナーを含めた4人での共同生活になりました。面白くなりそうです」と、初っぱなから想定外な事が起きている。4年前は、話す相手もいなかった川村にとって、これはうれしい誤算かもしれない。
楽しそうに炊飯器を抱えて日本を飛び立った川村に対し、月刊バスケットボールやすでに新聞報道に掲載された共同通信の記者、NBAを中継しているWOWOWなどメディアが駆けつけ、そして栃木から来たファンも一緒となり、彼らを見送った。bjリーグを制した横浜のレジー・ゲーリーHCも、たまたま同じ便で帰国する。その見送りに親友であり、リンク栃木でともに頂点を勝ち獲った戦友でもある山田 謙治選手も居合わせる偶然。
チャレンジを成功させるためには、運や人のつながりも大切な要素である。覚悟を決めた二人だからこそ、本気で手を差し伸べてくれる人はきっと現れるはずだ。そのためにも本気で打ち込み、もう日本に帰ってくるな、と激励する。そして、その先にあるジョーダンブランドとの契約やマイホームを建てる野望を叶えろ!
「楽しみ」と言う川村に対し、「もう不安しかない」と言う脱サラエージェント鴨志田氏。今後の生活のためにも、二人三脚で契約を勝ち取らねば明日はない!?
互いに方向音痴と言い合い、米ドルへの換金も出発直前に気付いて慌てる二人の珍道中が始まった。
鴨志田氏がエージェント業務を行う「ワールド・サービス・スポーツ」では、世界に挑戦する選手達へのスポンサードも募集している。資金の援助だけでなく、 サプリメント、食事、水などのスポーツ選手に必要不可欠な物品のサポートを募集中。今年は川村選手一人に絞ったが、毎年夏にはアダム・ウィルソン トレーナーが行うキャンプには、プロを目指してスキルアップしたい選手にはその門戸を開いている。
text by IZUMI