日本を代表し、Bリーグ1位の川崎ブレイブサンダースと韓国KBL1位の安養KGC(2016年12月22日現在の順位であり現在は2位)による初代東アジアのチャンピオンを争う「EAST ASIA CLUB CHAMPIONSHIP 2017」が1月14日、5,457人の観客が見守る中で行われた。天皇杯決勝で敗れた川崎の傷は癒えておらず、「なかなかモチベーションが上がらない部分があった」と北 卓也ヘッドコーチ。さらにその天皇杯で腰を痛めていた辻直人選手が前日練習に参加できず、エースを欠いて臨むことになる。対するKGCも、1月10日(火)・11日(水)に連戦を終えたばかりでの来日。中心選手で韓国代表の3人でもあるイ・ジョンヒョン選手、ヤン・ヒジョン選手、オ・セグン選手はリーグ戦中に負ったケガのため、先発出場させたが早々にベンチに退かせる。北ヘッドコーチの言葉を借りれば、「両チームとも主力は出なかったが、お互いに控え選手ががんばった試合となった」。
学ぶことも多かった韓国選手の上手さと強さ
韓国バスケットの特徴は、正確無比な3Pシュート。初めてのコートであり、さほど確率は良くなかったが、それでも序盤からドライブでえぐって外で待つ選手に合わせるインサイドアウトからの3Pシュートは脅威である。お互いに2人の外国籍選手を擁し、1Qはオンザコート2と1人多い川崎は、ニック・ファジーカス選手とライアン・スパングラー選手の2人が活躍し、14-5とリードを奪う。開始5分26秒、早々にタイムアウトを取ったKGCが本来の力を見せ始める。オフェンスリバウンドからチャンスをつないだKGCが、22-21と1点差まで追い上げ1Qを終えた。
2Qと3QはKGCの方が、オンザコート2と1人多い時間帯になる。だが、KBLのルールとして2人の外国籍選手のうち、1人は193cm以下という制限がある。203cmのデビッド・サイモン選手と、ルールに適用されるもう一人は178cmしかないキーファー・サイクス選手だ。NBA Dリーグのオースティン・スパーズでのプレー経験があり、23歳と若い。そのサイクス選手が、読みの早いパスカットからトランジション速くゴールを奪っていったKGCが、37-42と逆転して前半終了。マッチアップした藤井祐眞選手は、「クイックネスがあって、ドライブがすごい」とサイクス選手の印象を語る。
後半に日本人選手が目覚めたことで接戦を制す
3Qのサイクス選手は、さらに観客を驚かせる。178cmから繰り出すダンク、203cmのライアン・スパングラー選手の長い手を縫うようにダブルクラッチで次々とゴールを決めていく。対する川崎は前半で日本人選手は5点しか挙げられず、ハーフタイム中に北ヘッドコーチは積極的に行くよう発破をかけた。その甲斐あって、辻選手の代わりに先発を任された晴山ケビン選手の逆転3Pシュートなど日本人が積極的に攻めたことで、61-60とリードを奪って最終ピリオドに向かう。
4Qのオンザコート数は川崎の「2」に対し、KGCは「1」。「日本では1Qと4Qがオンザコート2だったのは新鮮だった」とサイクス選手が言うように、「1-2-2-1」というKBLルールの流れをそのまま沿った選択であった。その4Q、川崎はスパングラー選手だけをコートに送り、序盤はともにオンザコート1。202cmのキム・チョル選手が、すでに22点を挙げていたスパングラー選手を好きにさせない体を張ったディフェンスで対抗。3分を過ぎ、ファジーカス選手を投入してオンザコート2となり、高さが増した川崎がリードを広げる。それでもKGCは、ファジーカス選手に対して204cmのキム・ミヌ選手が簡単にボールを入れさせないディフェンスで粘りを見せる。ファウルトラブルによりベンチから見ていた篠山竜青選手も、「相手はローポストのディナイがハードだった」と言うほど。今後のBリーグにおいて、日本人選手による外国籍選手ビッグマン封じのヒントを得られるようなフィジカル強いディフェンスは見応えがあった。
終盤、藤井選手の連続得点で突き放していく。追い上げるKGCが、プレッシャーディフェンスからボールを得て点差を詰めたが、83-80で川崎が日韓戦を制し、賞金100万円を獲得した。
中国やフィリピンを巻き込んで、アジアのバスケットが高まれば良い
試合後、北ヘッドコーチはこの一戦を盛り上げてくれた多くの観客に向かって、「正直言うと、この試合は明日のオールスターの前座試合のようなものだと思っていました」と語り始める。「どうやってモチベーションを上げようかと思っていたほど」だった。しかし、その状況を一変させたのが、5,457人集まったファンの声援だった。「こんなに多くの方が入ってくれたことで、選手たちは勝手にモチベーションが上がっていました」と感謝の言葉を伝えた。キャプテンの篠山選手も記者会見で、「これだけのお客さんに注目されれば、お互いにモチベーションが上がるし、観客の皆さんに助けられた試合になった」と素直な感想を述べている。
天皇杯の敗戦をどこか引きずる形で今大会に入ってしまった川崎であったが、「KGCは3Pシュートが良く入るチームであり、Bリーグでも千葉ジェッツなどと似ている部分もある。韓国のチームとの対戦ということにとらわれず、リーグ中の1試合だと思って、今後につなげていきたい」と藤井選手はここからの再出発を誓う。北ヘッドコーチも、「天皇杯で負けて、なかなかモチベーションが上がらない部分も確かにあった。これをきっかけに残りのリーグ戦に向けて、がんばろうという気持ちに選手たちはなったと思う。Bリーグ初代王者を目指してがんばります」と話し、すでに18日から再開するリーグ戦に照準を合わせていた。
これまでも日韓のクラブ間によるプレシーズンゲームでの交流は多く、今シーズン前も川崎vsKGCは対戦している。bjリーグ時代にあったbj-KBL チャンピオンシップゲームズも同じくシーズン前であり、bjチャンピオンとの対戦とともに旧NBLのクラブとの練習試合も行われていた。プレシーズンゲームの戦いに、北ヘッドコーチは、「お互いに試す場であり、もちろん勝ちたいがそこまで勝敗にはこだわっていない。韓国チームは顕著に勝ちにこだわっていない感じがする」という印象通り、これまで行われていた日韓チャンピオンシップもチームができていない状況はプレシーズンゲームのような感じは否めなかった。しかしシーズン中に行われた今回は、「リーグで戦っているベストなプレイができるので、プレシーズンとは全く違った真剣みのある戦いにはなる」と北ヘッドコーチが言うように、ケガで両エースは欠いたが締まった試合となった。
「EAST ASIA CLUB CHAMPIONSHIP 2017」は歴史の1ページを開いた。KGCキム・スンギ ヘッドコーチは、「今後も続けていきたいし、中国やフィリピンも含めて発展していければ良い」と前向きだ。北ヘッドコーチも「日本と韓国の交流からアジアのバスケットが高まれば良い。クラブ間の真剣勝負が日本代表の強化にもつながっていく」と日本にとってもプラスとなる戦いであった。BリーグとKBLのルールの違いもあったが、「バスケはバスケなのだから」とスンギ ヘッドコーチは話し、双方が受け入れて世紀の一戦は無事に行われた。一方、北ヘッドコーチは、スケジュールの面での改善を訴える。それは川崎が連戦を戦い抜いた天皇杯のことではなく、KGCが今週の平日に2連戦を終えたまま参戦することになったことを気遣っていた。
今回出た課題をしっかり双方から吸い上げ、少しずつでもより良い大会となり、継続していくことが大事である。来年の東アジアのクラブ対抗戦で、川崎は2連覇、KGCがリベンジするためにも今後の両リーグで活躍し、優勝しなければこの舞台に戻っては来られない。新たに始まった日韓戦を一つのモチベーションとし、BリーグもKBLも後半戦でさらなるしのぎを削り合う熱い戦いを魅せてくれることだろう。
EAST ASIA CLUB CHAMPIONSHIP 2017
文・泉 誠一/写真・安井 麻実