幹太の姉・水野妃奈乃もまた、今シーズンは新天地でチャレンジの日々を過ごしている。9月21日に行われたWリーグユナイテッドカップのグループステージで、前日に圧勝した日立ハイテククーガーズはシャンソン化粧品と対戦。最後は9点差で敗退となったが、「10点離れてもしっかり追いつきましたし、これは良い負けだと思って、リーグ戦につなげていきたい」と手応えを得られた試合だった。
昨シーズンはわずか4勝しか挙げられず、WプレミアからWフューチャーに降格となった日立ハイテクだが、アーリーエントリーの3人以外にも7人の新戦力を迎える大型補強を敢行。妃奈乃にはシューターとして大きな期待がかかる中、本人は「みんなが得点を取れるので、自分はコートにいるだけでみんなが安心できるようなプレーヤーになりたい」と自身の役割を見定めている。「柏倉(秀徳)HCはリバウンドやディフェンスも求めてると思う」という言葉を証明するように、この日はチーム最多の8リバウンド。展開に応じてチームに貢献できる仕事を考えながらプレーしている。
「シューターとしての引力というか、自分のところにディフェンスがついてくる分、周りがドライブとかカッティングした後にそのスペースを攻めるのも自分のプレーだと思うし、スペースを空けることも自分の得点だと思ってプレーしてます。シューターとして決めるところは決めなきゃというのもありますけど、みんながプレーしやすいような存在でいられるように、歳を重ねてきて今はそういう役割になってきてるんじゃないかなと思います」
個人としても、昨シーズンは三菱電機でWプレミア昇格の目標を達成できず、苦い思いを味わった。それを「逆に良い経験をさせてもらった」と受け止めている妃奈乃は、日立ハイテクで迎えた今シーズンは「良い選手が入ってきたので、絶対に勝つというプライドを持ってやっていかないといけない」と心に期しながら、「ずっと1位でいることもプレッシャー」と昨シーズンの経験を思い起こし、1シーズンでのWプレミア復帰を目指すチームを引っ張る覚悟だ。
「三菱では1位なのに『苦しい』と思いながらやってましたし、フューチャーでも勝つってすごく難しいので、舐めてると足をすくわれて負けるぞということは伝えていきたいです。でも、ハイテクは日頃の練習から自分の強さを磨けるし、やってやろうという気持ちが強いチーム。若いから崩れるときもあると思うんですけど、そういうときに立ち直らせるのは、年齢が一番上の自分の役割だと思います」
姉・妃奈乃が弟・幹太の応援に足繁く駆けつけているのに対し、5月上旬までレギュラーシーズンが続くBリーグのスケジュールの都合上、弟は姉の試合を見に行くことがなかなかできずにいたが、21日の試合は代々木第二体育館に姿を現し、ネームタオルを手に姉を応援していたそうだ。「今日来てるんですよ」と明かした際の妃奈乃の表情と口ぶりからは、嬉しさがにじみ出ていた。
かつて前十字靱帯断裂という大怪我に見舞われた2人は、新しい環境に飛び込み、チーム再生の一端を担っている点も共通している。名古屋と京都、ひたちなかと川崎はいずれも150km弱と、物理的な距離も今までと変わらない。「なんか私についてきたなという感じもあるし、そこ(チーム状況)まで似てきちゃうのかな」と笑う姉が「弟の存在で頑張れてる」と言えば、弟も「一昨年同じ怪我をしたときに一番心配してくれましたし、しょっちゅう応援にも来てくれて、本当に心の支えだなって思います」と励みにしている。2人は「相談もしながら、切磋琢磨してやっていきたい」と口を揃え、これまで以上に高め合っていく。
文・写真 吉川哲彦