それでも富樫と秋田は優勝することができなかった。その最大の理由はむろん琉球の強さにある。個々のうまさ、強さもさることながら、緻密なスカウティングで、どの選手もが「秋田は富樫のチーム」と認めるエースガードの良さを少しでも消そうと守ってくる。そこには当然フィジカルコンタクトのあるハードなディフェンスもあり、富樫のスタミナはそうしてじわりじわりと奪われていった。
それが第3クウォーター、富樫自身が「人生で初めて」という右足の痙攣につながったのだろう(左足の痙攣は経験済み)。富樫の足がハタと止まった。同時に秋田の攻撃も止まった。そこが勝負の分かれ目だったといえる。第4クウォーターの初めにベンチで応急処置を受け、残り7分46秒でコートに戻ってからは鬼気迫る1対1を見せたが、勝負の流れを変えることはできなかった。
試合後、チームが優勝するために何が足りなかったと思うか? の質問に「チームに何が足りないというより、今日の試合に関しては自分に足りないものが見つかった」と富樫は答えた。
「こういう事態(足が攣って、動きが鈍くなること)になったのは、琉球のディフェンスのプレッシャーだったり、フィジカルコンタクトなどで脚に“来た”んじゃないかと思うんです。その点でもう少し強い脚…40分間試合ができる体力や脚力をつけることが、これから先の課題になっていくと思います。もちろんそれは今までもわかっていたことですが、今日の事態でまだ改善できていないことがわかりました。(ファイナルという)大舞台でこうなったので、この悔しさをバネに、これからトレーニングに励んでいきたいです」
そのとき、改めてハッと気づいた。そうか、彼はまだ20歳なのか。同級生は大学3年生。彼自身は好んでプロの世界に飛び込んできたわけだが、それでもまだ体ができあがるところまでは至っていない。富樫の速くて、しなやかなプレイを支え、それでいてタフな筋肉をつけるには、もう少し時間が必要なのだ。
「先のことはまだ見えない」と言いつつ、一方で「チャレンジできるところは若いうちにしていきたい」とも言っている。それが示すものは何なのか。今年度の男子日本代表候補にも選ばれ、JAPANのユニフォームを身にまとって躍動する姿も見てみたいが、それでもやはり海外にチャレンジするほうが富樫勇樹には似合っているような気がする。20歳。まだまだ進化の序の口である。
文 三上太