横浜や仙台、名古屋などはほとんどの日本人が知る地名であり、信州や琉球といった地域名もその地域のイメージを容易に想像できる。その中で越谷は、政令指定都市でもなければ有名な旧跡や観光スポットもないが、年々その層を拡大しているBリーグファンにその地名がすっかり知れ渡ったということが、プロクラブ化以降の越谷のホームタウンに対する第一の貢献だ。Bリーグファンを除けば全国に浸透している地名とはまだ言い難いのも確かだが、信州もクラブ創設からしばらくは千曲市に拠点を置いていたことから、三ツ井は「知られてない地域だからこそ面白いと思うし、知ってもらったときの振り幅が他の地域よりもすごく大きいと思うので、信州でやってきたのと同じくらいの情熱や愛情をコミュニティーに注いでいきたい」と語る。
会見では、三ツ井が地域に対してしっかりアンテナを張っている様子も窺えた。越谷市について問われれば、おそらく大多数の人がレイクタウンと答えるであろうところを、三ツ井は埼玉県内に住む小・中学校時代の同級生と見た田んぼアートを挙げた。本人は「越谷かどうかわからないんですけど」と断っていたのだが、これは越谷市立総合体育館からほど近い場所で夏季のみ実施され、隣接する工場の展望台から観覧することができる夏の風物詩。信州在籍時は、クラブ公式SNSで展開された応援レクチャー動画などにも積極的に参加したという三ツ井は「広報全般に全面的に協力するつもりです。踊るのは無理なので、それ以外で(笑)」と言い、「この1年間は『こういうのもあるんだな』というのを僕自身が知れるという楽しみもありますし、県外の人たちにもいろんなものを伝えられるように頑張っていきたい」と意欲的だ。
もう一つ、越谷といえば、会見のフォトセッションでも全選手が手にしたネギばんばん。市の特産品をモチーフにした応援グッズに「この手があったとは、ってビックリしましたね」と感心した三ツ井は、信州のホームゲームが鳴り物禁止だったこともあってか、越谷のホームゲームから新鮮な刺激を得ようとしている。
「チームカラーがガラッと変わるので、また違った風景が見られる楽しみもありますし、鳴り物が会場に響き渡るとすごい後押しになるのかなと思うので、どれだけの応援を背にしながらプレーするのかというのも楽しみです。1つでも多く勝って、ファンの皆さんとネギばんばんするのをモチベーションにしてプレーしていきたいです」
信州で高度なバスケットシステムに取り組んできた自負を持つ三ツ井だが、「自分のプレースタイルは華々しくもないし、玄人好み」と自覚しているように、派手な活躍をするタイプではない。しかしながら、「一つのディフェンスとか味方を助ける動きで、『あいつ良い所にいるな』と思ってもらえればそれでいい」という考え方は、自己犠牲の重要性を説く安齋HCのバスケットには不可欠だ。「三ツ井がいて良かったと思ってもらえるように」と新天地での決意を語る三ツ井は、コート内外で越谷の支えとなる。
文・写真 吉川哲彦