「正直、あの地響きのような朱鷺メッセを超えるレベルにはまだなってない」とは言うものの、1試合平均4000人以上を動員するブレックスアリーナ宇都宮で1つの成果を出したという自負はある。熱烈に応援したい人と、静かに見守りたい人が共存できる空間が生まれたことは、チームだけでなくクラブ全体がカルチャーを築き上げた証左。アメリカの観戦文化に触れてきた関は、人それぞれの楽しみ方があってしかるべきと考えている。
「アメリカは、試合開始時間に席に座っていようと思う人もあまりいない。チケットは持ってるから遅れても行こう、着いたらハーフタイム、チームは負けてる、とりあえずビールでも買うか、終盤になって追いついてきたぞ、とそこで初めてビールを置いて試合に集中し始める……それでいいと思うんです。究極のバスケットの面白さって残り2分。そこで20点離れてたら帰っちゃう人がいたっていい。どんな見方があってもいいんですよ」
そんな空間の中でアリーナMCがどうあるべきかということになるのだが、関はアリーナMCという一括りの肩書は持っているものの、自身を「MC、イベンターというよりは単なるバスケットマン」と考えている。パイオニアでありながら、ある意味では日本のバスケット界に定着しているアリーナMC像からはみ出した存在ということかもしれない。
「生業としてやっている人たちは、ここで認めてもらって他でも仕事を貰うとか、ギャラを上げてもらうとか、ビジネスにつなげていかないといけない。アピールしなきゃという思いが当然あるわけです。でも、僕にはそれがない。『関さんみたいなMCいないね』って言われることもあるんですが、そりゃいないですよ、僕は自分をMCだと思ってないんだから(笑)。お客さんが増えていって、地域やアリーナにカルチャーが根づいていったらMCなんて要らないというか、誰でもいいんです。必要最低限のアナウンスができればいい。来たるべき新アリーナ時代は、必要な情報をビジョンが届けてくれるし、MCの上手いか下手かがバスケットボールの面白い、面白くないにつながるのは絶対にダメ。矛盾したことを言いますが、僕が求めるバスケットボールエンターテイメントの世界にはMC SEKIという存在は必要ない」
bjリーグのオールスターやファイナル、ウインターカップ決勝、Bリーグの歴史的開幕戦など、関は様々なビッグゲームに必要とされてきた。Wリーグオールスターではパフォーマンス満載の選手たちにツッコミを入れ、観客の笑いを誘うなど、試合の性質に応じて喋りを使い分ける巧みさも持つ。そして、2021年の東京オリンピックでは26試合でMCを担当。「長くバスケットボールエンターテイメントの世界にいて、これはそのご褒美というか、ここまで来れたんだなという達成感はありましたね」という関は、昨夏に沖縄で行われたワールドカップを現地で見て、ある種の感慨もあったという。観客は多くなればなるほど応援目的でない人の絶対数も増えるが、興奮を呼ぶ試合展開であれば、どんな観客でも自然と身を乗り出し、無意識に声を上げる。そんな関の理想が、男子日本代表の躍進によって具現化されたのが昨夏のワールドカップだった。