アディリは、日本でのキャリアをスタートさせたのが徳島であったことについても喜ばしく思っている。この日は東京という遠方で金曜のナイトゲームだったが、水色のチームTシャツやユニフォームを身にまとったファンは少なくなく、応援の声にもまとまりがあった。創設2シーズン目ながら、徳島ガンバロウズというクラブが地域に着実に根づいていることが窺える。
「徳島のファンは日本一だと思います。徳島のファンの皆さんの前でプレーすることは嬉しいことですし、光栄に思います。街を歩いていてもいろんな人に声をかけられますし、チームの調子が悪くても100%サポートしてくれている。自分の母国の友達にも、そんな話をしています。ホームの会場の雰囲気も素晴らしいし、アウェーにも皆さん足を運んでくれて、徳島のファンの皆さんは最高です」
アディリは日本でプレーしていることに、もう一つ重要な意味を見出している。先にも述べたように、ウイグル出身の選手が日本でプレーしたのは、おそらくアディリが初めてであろう。逆もまた然りで、アディリの地元から世界に飛び立ったケースも貴重とのこと。それゆえに、自身のバスケットのキャリアもより充実したものになっているという実感が強い。
「ウイグルを代表するだけでなく、自分の出身の街から海外に出てプロリーグでプレーする人はたぶんいなかったと思いますし、世界に出て活動することも稀なことなので、日本でプレーしているのは自分にとっては特別なこと。違う国で自分の民族を代表できることは本当に嬉しいです」
筆者が取材した試合は、徳島が第4クォーター開始1分で13点リードを奪い、残り5分を切ってもまだ10点差をつけていながら、残り0.3秒に逆転を許す痛恨の展開で、連敗は9にまで伸びてしまった。しかし翌日のGAME2、チームは前日同様のロースコアゲームでバウンスバックし、2点差で取り返してみせた。アディリは2試合ともに2得点止まりだったが、「自分の役割が昨シーズンと少し変わって、最初は慣れない部分もあったんですが、次第にアジャストできるようになってきて、最近は調子も上がっている」とのこと。プレーオフ進出に向けて後がない状況だが、「残りの試合はチームとして戦い、自分のプレーももっと上げていって、貢献できるように役割を全うしたい」と決意を新たにした。貴重なウイグル出身選手として、自身の存在価値を証明することができるか。アディリの戦いはまだ続く。
文・写真 吉川哲彦