昨年1月、当時B3参入初年度のシーズンを戦っていた徳島ガンバロウズから新加入選手に関するリリースが出た際、筆者は「この名前で中国籍なのか」と思ったことを記憶している。その後調べてみると、アディリ・クエルバンというその選手は新疆ウイグル自治区の出身であることがわかった。ここは、中国の広大な国土で最北西部に位置し、モンゴルやロシアの他、中央アジア諸国とも接している地域。シルクロードが通っていることでも知られ、様々な文化が交わる地域性を考えると、我々日本人が中国人に対してイメージしがちな漢字表記の名前は存在しないであろうことも想像がつく。
2月14日にアウェーで臨んだしながわシティバスケットボールクラブとのGAME1で、そのアディリを取材することができた。ザック生馬GMによれば、ウイグル族はファミリーネームという概念が薄く、自身の名前の後ろに父親の名前をつける形が一般的とのこと。したがって、ユニフォームの背面にある名前表記も、父親の名前である「KUERBAN」ではなく「ADILI」となる。考えてみれば、日本のバスケットボールトップリーグでウイグル出身の選手がプレーした前例はおそらくないのではないか。様々なルーツを持つ選手を見ることができるようになったのは、Bリーグにアジア特別枠が設けられたことが大きな要因であり、徳島のようにそれぞれに出自の異なる選手が多く集まっているクラブの存在によるところも大きい。
NBA選手も輩出してきた中国は当然のようにバスケットが盛んな国だが、あれほど国土が広ければ、その熱も地域差はあるだろう。アディリが日本のバスケットについてどれくらい知っていたのかは気になるところだが、アメリカに渡ってNCAA1部の大学でプレーした経歴も持つアディリは、早い段階で日本の選手との接点を持っていた。
「2017年にロサンゼルスとノースカロライナでアディダスキャンプが開催されたときに、安藤誓哉(現・島根スサノオマジック)とテーブス海(現・アルバルク東京)に出会うことができました。それから彼らのプレーはずっと気になってましたし、それで日本のバスケットリーグにも興味を持ち始めました」
アディリが実際に日本でプレーするようになって1年が経った。2016年の華々しい幕開け以来、日本バスケット界を名実両面で飛躍的に成長させてきたBリーグは、アディリの目にどのように映っているのだろうか。
「リーグを見ると、革新しようとしているのをすごく感じます。帰化選手枠があったり、アジア特別枠を作って拡大もしていたりということを進めていて、海外からレベルの高い様々な選手を呼ぼうとしているリーグの想いが伝わってきます。良い意味でワイルドなリーグだと思っています」
そんな日本バスケット界に身を置いていることは、アディリにとってもポジティブな現実。今日本でプレーできていることに対し、感謝の気持ちが堪えない。
「自分のキャリアにとって、日本でプレーすることはすごく役に立つと思います。BリーグはB1、B2、B3とカテゴリーに関係なく、非常にレベルが高くてプロフェッショナル。コーチや組織など、全てがしっかりしていると感じます。日本でプレーしたということを自分の履歴に載せられるだけでも素晴らしいことで、他の国やチームが自分のキャリアを見て『日本でプレーしたことがあるんだな』と思ってくれるのは、すごく誇りに思うことです」