「ジャンピがケガしてしまって、E(ラべネル)も出られるかわからない状況ということで、アントを4番で使おうという話は潤さんともしてましたし、場合によっては日本人4人とビッグマン1人というのも考えてました。うまくできたかどうかはまだ自分ではわからないですし、もっとうまい使い方はあったのかもしれないですが、今日は勝ったので、できたほうなのかなと思います」
試合の流れを読む力や、試合の中で発生した状況に対する瞬間的な判断力は選手にも必要とされる要素だが、指揮官となればその要素は選手以上に磨かれていなければならない。選手起用の面で策が奏功した佐藤ACも、試合全体を振り返ると反省点が多いと語り、ACとは明確に役割が変わるHCの難しさを実感したようだ。しかし、ACとしてもまだ実績が少ないことを考えると、この経験は今後のACとしての業務にも少なからず生かされるに違いない。いずれHCの肩書を背負う日がくるかもしれないと思えば、佐藤ACにとってこの上ない経験にもなる。
「今日感じたのは、対応能力がなかったらこの仕事は務まらないということ。相手がどうやってくるとか、実際にやってきたことに対して、同じ戦術が通用しなくなったらまた新しい戦術を考えないといけない。40分間切羽詰まった中で、まだまだそこはできなかったなと思うので、もっと勉強しないといけないと思ったし、こういう早い段階で経験できたのは自分にとってプラスになったのかなと思います」
前夜は「このシチュエーションはどうしようか」などと考えてしまい、不安も頭をもたげてあまり眠れなかったというが、当日になると「やるしかない」と覚悟を決め、「チームが一つになる良いきっかけになるんじゃないか」と自分に言い聞かせたという佐藤AC。「GAME1に賭けてたので勝って良かったです。選手に感謝しないといけないですし、潤さんに勝利を届けられたことがすごく嬉しいです。とにかくホッとしてます」と胸をなで下ろして、会見場を後にした。
続いて登壇した五十嵐は、佐藤ACの7歳上。後輩の初采配については、先輩らしく「(100点満点で)10点くらいじゃないですかね(笑)」と冗談めかして語ったが、Bリーグ初年度から2シーズンをともに過ごした仲間として、その熱量の高さはよく知るところ。佐藤ACらしい振る舞いがチームに良い影響を与え、勝利を呼び込んだという感覚があったようだ。
「彼もまだACとしてスタートしたばかりですが、自分たち選手にエネルギーを与えてくれて、試合中もそうですけど試合前の練習やミーティングからチームを鼓舞するような働きかけをしてくれてました。僕は彼が選手のときから知ってますし、立場が選手からコーチに変わっただけで、彼がチームを勢いづけてくれるのは同じ。勝ったということが全てなので、今日は良い仕事をしてくれたと思います」
翌日は接戦の末に敗れる結果となってしまったが、これも佐藤ACにとっては経験の一つ。翌週は鵜澤HCの右腕という立場に戻り、チームは5位のアースフレンズ東京Zとの直接対決で連勝して1ゲーム差に迫った。佐藤ACがHC代行として得た学びは、1年でのB2復帰を目指す新潟に何をもたらすだろうか。
文・写真 吉川哲彦