どんなチームであっても、たった一つのアクシデントもなく長いシーズンを完走することはまず不可能だろう。最終的にリーグ優勝を果たすようなチームでさえ、全てのことが想定通りに進むということは考えにくく、不測の出来事というのは何かしら起こるものだ。そこでどう対処できるか、影響を最小限にとどめられるかどうかという点が、組織として成功を収める条件の一つでもある。
B3リーグからの再出発という、これまでとは全く異なるシーズンを送っている新潟アルビレックスBBも、シーズン序盤の黒星先行から脱却し、6位まで順位を上げてきたところで思いがけぬ事態に直面した。ホームで迎えた第18節、鵜澤潤ヘッドコーチが体調不良のため欠場を強いられたのだ。指揮を代行したのは、クラブ再建を期して古巣復帰を果たした1人である佐藤優樹アシスタントコーチ。bjリーグ時代の新潟でプロキャリアをスタートさせ、Bリーグ2年目の2017-18シーズンまで8シーズンにわたってプレーした地元出身の佐藤ACは、クラブのことも、現役時代に共闘した鵜澤HCや五十嵐圭、池田雄一の人となりもよく知っている。ただ、コーチとしての経験はまだ浅く、プロの舞台ではこれが初采配。Wリーグで目に見える成果を挙げてきた鵜澤HCの代役を務めるとなると、少々荷が重いと思われても仕方ないところだ。
しかし、GAME1の新潟は前半に3点ビハインドを背負いながら我慢強く戦い、第4クォーターに34得点と爆発して白星をつかんだ。佐藤ACは試合後のコート上での挨拶と同様に、記者会見でも「HCが不在という緊急事態の中で、試合に出てるメンバー、ベンチメンバー、選ばれなかったメンバー全員が一つになって戦ったことが、この勝利につながったと思います」と結束力を勝因に挙げたが、その佐藤ACの試合運びも勝因の一つ。年明け初出場となったイバン・ラべネルが23得点の活躍を見せたとはいえ、ただでさえ鵜澤HCがいない中、ムトンボ ジャンピエールとファイ パプ月瑠も欠場し、上江田勇樹も試合中に負傷してしまった。それにもかかわらず勝利という結果が生まれたのは、佐藤ACが試合の状況をよく見極め、選手の起用法を少し変えたところにもその要因がある。
「相手にアジア枠のビッグマンがいて3ビッグになるシチュエーションもある中で、大矢孝太朗選手を3番で使ったのは今シーズン初めてだったと思います。いつも頼れるHCがいない中で、自分の勘や考えを貫き通さなかったら選手に申し訳ないと思ったので、そこは強い気持ちを持って、自分が決めたことを貫こうと思いながらやりました」
もっとも、試合への準備は鵜澤HCと意見交換しながら進めてきたものでもある。鵜澤HCの欠場がチームに伝えられたのは試合の前々日。当然ながら、それまでは鵜澤HCが練習の陣頭指揮を執っていた。実際の試合では、アウトサイドプレーヤーのアント・ネルソンを4番ポジションで起用する時間帯もわずかながらあったのだが、これもコーチ陣の構想にあった戦略だった。本来いるはずの選手を欠いた中で選手起用をやり繰りし、従来と異なるラインアップを臨機応変に実践することができたのは、佐藤ACが見事だったというべきだろう。