7人の選手で45分を戦い抜いた中で、精神的支柱でもあるギブスが退場となったことはチームに動揺が走ってもおかしくない出来事だったはずだ。しかし、安齋HCが語っていた通り、星川はギブスの戦う姿勢に触発された部分があり、この試合はより高い集中力で臨むことができた。ギブスの退場という不測の事態が起きても、星川の心持ちが変わることはなかった。
「今節に関してはマツ(松山)とカイもいない中で、使ってくれたら一生懸命やろうということだけを考えてやってました。ジェフがああやって戦ってる姿を僕らに見せてくれるのは本当に大きいし、1人ひとりの成長が必要だと思って入った試合だったので、自分のパフォーマンスを出すというところに注力しました」
シーズンを通して成長し続けなければならないという点は、チームとしても個人としても同じ。接戦に持ち込むことはできても勝利という結果を得られなかったところから、この日はようやく白星を手にすることができたが、まだ階段を1段上がったにすぎない。劇的な勝利の直後も星川は浮かれることなく、気を引き締める。
「シーズンもあと半分しかないですが、こういうゲームが今はたまに出る感じ。(ヒーローインタビューで)そういち(井上)も言ってましたが、LJが言う『今を土台にしてどんどんステップアップしていく』こと、そうしないとシーズンが終わっちゃう、何も残らないという状況になるので、この積み重ねが大事だなと思います」
星川は昨シーズン途中に特別指定選手として越谷の一員となり、すぐにスターターの座もつかんだ。そして、B1昇格を経験。誰もができるわけではない貴重な経験は、間違いなく星川のキャリアに良い影響を与えるものだ。
「チームが一体となって勝てて、どうすればああいう状況で勝てるかという一つの成功体験を得られたので、ああいう状態にもっていくためにはというイメージがついたのが大きいです。竜三さんがよく言う『自己犠牲を払う』、『チームのために何か犠牲になってプレーする』という形の集大成がみんなで出せたと思いますし、努力してるところを選手同士が感じ合って高められたシーズンだったと思うので、昇格の経験はやっぱり選手として大きいなと思います」
安齋HCの存在も、星川にとっては大きな影響力を持つ。大学時代の最初の2年間は宇都宮の特別指定選手としてプレーしたが、そのときの指揮官が安齋HC。後を追うように越谷にやってきた星川は、今まさに安齋HCからあらゆるものを学び、吸収しようとしているところだ。
「バスケで生活できる幸せを感じさせてくれるので、気の緩みを消してくれる。そういうのは個人でしっかりやらないといけないことなんですが、竜三さんのおかげでだんだんやれるようになってきたのかなと思ってます。あと、人と人のつながりを大事にする方。プレーが良ければいいというのではなく、自己犠牲を払えること、感謝の気持ち、プロとしての意識という部分でも一流でないといけないなって、竜三さんと接してると感じます」
この試合、ギブスが退場となった際に抗議した安齋HCがテクニカルファウルを取られているが、それが選手を守るための行動であることを星川が感じ取っているのも、安齋HCの人となりをよく知るがゆえだ。
「戦おうとしてる選手をかばってくれるし、ミスしても『使ってるのは俺だから』という器の広さを感じます。それは僕ら全員が思っているはずですし、ああいう姿勢で戦ってくれるのは本当に嬉しいです」
星川自身も言っているが、レギュラーシーズンは折り返し地点に達し、ここからは後半戦に突入する。その中で、安齋HCは星川と市場について「将来的にこのチームの核になってもらいたい」と明言。その期待にどれだけ応えていけるか、この後半戦は星川にとってキャリアを左右する重要な時期となる。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE