「自分の仕事はリバウンドとかハッスル、コートに入った瞬間にエナジーレベルが上がること。コミュニケーションを取って、5人でもっと良いチームプレーになるようにしたいです」と語るパク自身、多少なりともチームに貢献できているという感触があるようだ。前述の東京Z戦も、コートに立った1分の間に3回のディフェンスポゼッションがあったが、チームは無失点で逆転にも成功している。「それが継続できればチームが勝つという試合も結構ありましたけど、僕が出るか出ないかはHCのチョイスだから、あとは自分がやることをしっかり準備すること。次の練習も真面目にやります」と、たとえ短い出場時間であろうと自身に課された役割を遂行することに意識を傾けているという。
そんなパクは昨シーズン、金沢武士団と契約したことで日本にやってきたのだが、日本で暮らし始めて半年も経たないうちに経験したことのないレベルの大地震に見舞われ、バスケットどころではない時期も過ごした。能登半島地震が発生した瞬間のことを、パクは鮮明に覚えている。
「人生で初めて。午後4時10分です。これは忘れないです。アラームが鳴って、スマートフォンに日本語で危ないメッセージが出て、『何!?』って思いました。最初は弱い地震がきて、『ああ、日本で普通にある地震かな』って思ったんですけど、もっと重い地震がきて、窓がドミノみたいになって、危ないと思ってすぐ外に走っていきました」
水道・電気・ガスといったライフラインが全てストップした中、パクは「いろいろ大変だったけど、隣の人たち、知らない人たちにたくさんヘルプをもらった」ことに感謝。今なお日本でプレーできていることにも感謝しているパクは、全ての経験を糧にすべく自身のキャリアを見据える。
「日本にいてバスケットもして、そういう経験はお金で買えないじゃないですか。できれば40歳までバスケットをしたいですけど、選手は終わりの瞬間がきます。自分は日本語も英語も韓国語もしゃべれるし、選手としても経験を積んで、将来はハイバリューなコーチになりたいと思ってます」
もちろん、現役の選手である今、一番フォーカスしているのはチームの勝利に貢献すること。勝率5割前後がプレーオフ進出のボーダーラインになりそうだが、山口は十分に手の届く位置につけている。当然ながら、そこにはパクの力も必要だ。
「プレーオフに行くのが目標です。自分のスタッツは関係ない。チームが勝ってプレーオフに行く、それだけです。もっと頑張ります」
映画「リバウンド」は、高校バスケ部が廃部危機などの逆境を乗り越えて全国大会決勝まで勝ち進んだストーリー。パクは日本でも震災というこの上ない困難に直面したが、自身にチームを前進させる力があることを改めて証明することができるか。
なお、今回の取材については英語の通訳として栗原クリスが立ち会い、パクは一部そのサポートを受けたものの、9割方の会話を日本語で対応。「最近は日本語の勉強をやって、ひらがなの読む、書くはOK。カタカナがまだ残ってますけど、しゃべるのも、いろんなチームメートと一緒に話してどんどん良くなってると思います」と自負する通り、日本人とも大きな問題なく意思の疎通を図れるレベルに達していた。物腰の柔らかい振る舞いも魅力の一つ。日本で愛される選手になっていってほしいものだ。
文・写真 吉川哲彦