宮田のコメントにもあったように、昨シーズンの田口は横浜EXで出場機会を減らしていた。田口自身、「ファンの皆さんに見てもらって、喜んでもらうことが大事。自分のキャリアを考えたときに、やっぱり試合に出る姿を見せたいというのが大きかった」と移籍の理由に言及。長く続いているその関係性ゆえに、宮田とは一度離れた後もシーズンが終わればよく連絡を取っていたそうだが、今回の移籍に際しては「オファーが宮田さんからだったのが嬉しいというのもあるし、それに甘えられないという気持ちもあります。ここにいるのも自分の実力というところを見せたいし、宮田さんがいるからこのチームに来れたとは思われたくない」と強い自覚を持って決断したということだ。
言うまでもなく、東京Uが新規参入し、そこに宮田が移籍したときから田口もクラブの動向を気にかけていた。過去2シーズン、有明アリーナで試合をしたことはなく、1万5千人のキャパシティーを持つメインアリーナも移籍してきて初めて体験した。通常はキャパシティーの小さいサブアリーナでの試合が多いが、田口は古巣を思い出し、「小豆沢のアットホームな感じがフラッシュバックして、やりやすさを感じました。ここがホームで良かったなと思います」と語る。そして、「早水(将希、前HC)さんたちが作り上げてきたものがあるし、その人たちの頑張りを無駄にしないように」とクラブ全体の土台を築く決意も固い。
今の田口には、モチベーションがもう一つある。負傷で長期離脱を強いられている上田雅也の存在だ。復帰が近いとはいえ宮田も故障で試合に出られず、東京Uは今10選手で戦っている状況。タイムシェアに取り組んでいる分、彼らの不在はより痛手となるが、この現実が田口のギアを一段上げている。
「ウエさんとは敵チームでずっとマッチアップしてきたんですが、同じチームになると印象が全然違って、すごく人想いな選手。そういう選手がケガしちゃったので、その想いを自分がチームに持っていければいいかなと思ってます。本人は強くなって戻ってくると言ってるので、それまで自分たちがしっかり上位をキープしなきゃいけないし、ウエさんが戻ってきたときにプレーしやすい状況を作っていくのが役目。勝ち続けて、ウエさんが戻ってきたら完成したバスケットができるようにと思います」
田口はチームに対する自信を深めるとともに、「面白いことにエクセレンスも勝ってるので、来月の対戦が楽しみ」と年明け早々に待ち受ける横浜武道館凱旋を心待ちにもしている。その後、連勝を13にまで伸ばしたチームの目標は、もちろんB2昇格。そのために田口の力がいかに必要とされているか、ここは再び宮田の言葉を借りたい。
「B2に行ったり、エクセレンスで続ける選択肢もあったと思うが、ユナイテッドを選んで来てくれたので、後悔しないような良いキャリアにしていってほしい。チームとして欲しい選手なのは間違いないし、個人的にも一緒にやりたいと思う反面、上を目指してほしい気持ちもありましたが、このチームを引っ張り上げてくれれば田口自身もB2に行けますからね。チームメートやファンに良い影響を与えられるマインドの良さが一番の強み。スタッツに残らない自己犠牲みたいなところを大事にするチームで、それを背中で見せられる彼は、チームのスタイルを作る上でも重要な存在です」
文・写真 吉川哲彦