谷底の時代は長くは続かなかった。
翌年にはリーグ準優勝、さらにその次のシーズンではリーグ制覇を成し遂げ、短期間で頂点まで登りつめた。
そのプロセスを知る彼がいまの川崎の中心に居続けることは、チームにとっての重要な財産だろう。
「自分自身も1年目はプレータイムがないところから始まって、プレータイムがあったりなかったりしながら、最終的に少しずつ得られていったんですけど、その中で悩んだりとか考えすぎてしまってハードにやることを忘れてしまって、戦術のことばかり、頭でっかちになっちゃったりっていう時期もありました。そういう部分がいまの選手たちにも共通して言えることはあるなって思っていて、その部分でどういうふうにマインドセットしていくかというところは自分の経験談として伝えることはできるんじゃないかなと思っています。
ひとつの経験として、1年目のなかなか勝てなかった時期がいまに生きている部分は大いにあるのかなっていうのは感じます。」
大きな過渡期にあっても、チームには成功するための失敗事例が備わっている。
信頼のおけるデータベースは山を登る際の遠回りを防いでくれるとともに、安全な近道も示してくれる。
川崎がここから再び登りつめていくために必要なものは。
「正しい判断じゃないですかね。
オフェンスでもディフェンスでも、ネノ(ロネン・ギンズブルグHC)さんはめちゃくちゃユニークな戦術をやろうとしているわけではないですし。
ディフェンスに関しても、システムで全部ベースを作ってこういうプレーに対してはこういうふうに守るっていう形を作るよりも、今はアジャストをすごく求められているんですよね。チームで決めるっていうよりは、選手が考えて正しく守る。
オフェンスも、正しいシュートセレクションとか、正しい判断を繰り返すっていうところが個々の成長、チームの成長に直結するのかなって思うので、そういうところがいまチームにも、個々人にとっても一番必要なのかなっていうところは感じますね。
それができればもう少しターンオーバーも減ると思うし、相手にオフェンスリバウンドを取られてしまう状況も減らせると思うので、そこはチームに求めていきたいですし、それができるようになればいま20代後半とかの若い選手が今後どういうチームに行ったとしても、どういうコーチと巡り合ったとしても使ってもらえる選手になるんじゃないかと、そこの分かれ目になるんじゃないかって感じはしています。」
合理的であること。
それは川崎が伝統的に求め続けてきたものだ。
ニック・ファジーカスの影響はもちろん大きかったが、日本の頂点に立っていた頃の川崎はフィールドゴールパーセンテージの高さが顕著だった。
それはつまりディフェンスの対応を見極め、より確率の高いシュートを毎回選択できていたということだ。
「いなくなって改めてニックは賢い選手だったんだなとすごく感じます。それに合わせてずっとやってきた長谷川(技)もそうだし、辻(直人、群馬クレインサンダーズ)とか外に出ていった選手も含めてですけど、賢い選手が多かったなって感じるので、いまの川崎の選手たちにもそういったところをどんどん学んでもらって、教えられるところはたくさん教えて、チームとして成長していければいいなって感じます。」
篠山竜青はどう生きるか(中編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE