苦しんだ分、成長できたシーズン
昨シーズンの『成長した選手リスト』を作るとしたら、その上位に津屋一球の名前を入れたい。サンロッカーズ渋谷に在籍して2年目、新しくヘッドコーチに就任したルカ・パヴィチェヴィッチの下で、本人いわく「悪戦苦闘しながら」新たなスキルを身につけた。後半戦に向かうにつれプレータイムを着実に増やし、チームに欠かせないワンピースとなったのは誰もが認めるところだろう。
もちろん津屋自身にも成長できた実感はある。そのための努力を重ねた自負もある。
「シーズンの最初の方はあまりもらえなかったプレータイムを獲得していくためには練習はもちろんですけど、試合で証明するしかないと思っていました。ルカさんの信頼を得るためにはディフェンスは当然のことながらオフェンスでは自分の持ち味である3ポイントシュートを確率よく決めなくちゃならない。なんて言うんですかね、ずっと油断できない細い道を歩かされているような感覚がありました。1つのミスも許されないぞ、1つのミスが命取りになるぞと自分に言い聞かせていたというか、自分を追い込んでいたというか、とにかく毎日必死でした」
そういえば開幕して間もないころのインタビューで、「正直、今の状況は楽しくないです」と答えた津屋に驚いたことがある。が、今ならわかる。そうか、あのころの津屋は自分を追い込む日々の真っ只中にいたのか。「でも、『楽しくない』という言葉の真意は決してネガティブなものではありません」と津屋は言う。
「あのとき『楽しくない』と言ったのは、単に練習がつらいとかおもしろくないとかいう意味じゃなくて、まだ自分に余裕がなくて、楽しめる次元に行けてないってことを言いたかったんです。だからこそもっと頑張って次の次元に行きたい、もっと成長したいという気持ちから出た言葉でした。全然ネガティブじゃなくて、むしろポジティブですね(笑)」
普段から心がけていたのは常に100%の集中力を維持すること。それはなかなか大変だなと思っていたら、続けて「ルカさんに少しでも認めてもらえるように、たいしたプレーでなくてもできたことを大げさにアピールしたり、チームのルールに則ったディフェンスでは『ほら、僕はこんなにしっかり理解してますよ』って顔をするようにも心がけていましたね」と真顔で教えてくれた。なんと、まあ正直な!聞けば、「人からよくバカ正直だなと言われる」らしい。「確かにそうですね。性格もバスケットもバカ正直で不器用。それはちゃんと自覚しています」と笑った。
ポジティブな選手には必ず良き助言者が現れる
続いて聞いてみたのは昨シーズンを通して成長した部分だ。津屋自身が手ごたえを感じたのはどういうところなのだろう。
「一番学んだのはやっぱりルカさんが求めるものをいかに表現できるかということで、一番成長できたのもその部分だと思います。ルカさんみたいにプレーの細部までこだわるヘッドコーチは初めてでしたし、それに対応するのは簡単ではありませんでした。けど、細かいルールを理解してみんなと共有できるようになれば、逆にわかりやすいんですね。変な話、決められたスポットにいればいいし、味方がどこにいるのか見なくてもわかるから、ある意味楽なんです。大変だったのはそれを頭で考えるのではなく、無意識の状態で表現できるようになること。そこまで行くのには時間がかかりました。いろいろ苦労も多かったけど、その分成長できたんじゃないかと思っています」