Bリーグには期限付移籍という制度がある。その主たる目的は言うまでもないことで、本来であれば誰にとっても前向きに受け止められるものであるはずだ。一旦は長崎ヴェルカと2024-25シーズンの契約に合意した小針幸也の場合、マーク・スミスというガードの外国籍選手を獲得したクラブが配慮して期限付移籍が決まったのだが、本人にとっては期限付移籍は思いがけないことだった。
「昨シーズン初めてB1を経験して、最初はなかなかうまくいかなかったんですが、シーズンの後半からスタートで出させてもらって、良い経験を積むことができて、やっと長崎のポイントガードとしてやっていけるなと思ったときに移籍の話を聞いたので、『これからだったのにな』という感じはありました」
ただ、移籍先が川崎ブレイブサンダースであることを知ると、その考えはすぐに変わった。大学まで神奈川県で過ごした小針にとって、川崎はやはり魅力のあるクラブだった。
「移籍先が川崎と聞いて、地元だし、高校から見ていたチームでプロとしてプレーできるならすごいチャンス。それまでのポイントガードの選手が移籍して、その穴を埋められるような選手になろうと思って、考え方はすごくポジティブになりましたね」
スピードが最大の武器で、長崎のバスケットスタイルにはうってつけだった小針も、他クラブでのプレーとなればそう簡単にはいかない。しかし、川崎は長年大黒柱だったニック・ファジーカスの引退に加え、ロネン・ギンズブルグヘッドコーチが就任したことで、今シーズンはスタイルが一変する。「昨シーズンの川崎だとハーフコートバスケット中心だったのが、僕が移籍してきた途端にスタイルが変わったのは、ツイてるなと思います」と、移籍のタイミングもちょうど良かった。
母校の桐光学園高校も神奈川大学も、実力を認められたからこそ進学でき、プロから声がかかったのもそれは同じはずだが、小針自身は今回の移籍も含め、これまでのバスケットキャリアは運に恵まれてきたという感覚もあるという。
「中学校はすごく弱くて、市大会にも出られないくらいだったんですが、ミニバスの1つ上の先輩が桐光に行ってて、たまたま練習に呼んでくれたんですよ。そこで調子が良くて推薦をもらえることになって、そこから神大にも行けて、コロナ禍もあって4年間1部に残れましたし、JR東日本秋田からプロに行きたいと思ったタイミングでスッと行けたので、『何か持ってるな』というのは正直感じてます」
選手として良いステップを踏むことができているという感触は強くあり、「あのタイミングでプロになって、長崎に行ったことはすごく良かったですし、最初なかなかプレータイムがなかったのも良い経験になりました。全部今につながってると思います」とプロキャリアのスタートが長崎だったからこそ、得られたものも大きかったと感じているところだ。
「プロバスケットボール選手はあまりコーチから怒られることもなく、キラキラした感じというのが僕のイメージだったんです。でも、長崎に行ってみたら全然そんなことなくて、プロってこういうものなんだというのを思い知らされました。みんな試合に出るために毎日必死ですし、人生かかってるんだなって。今もずっとその気持ちでいることができてるので、良い経験だったなと思います」