もっと評価されるべき神奈川大学の育成環境
関東大学1部リーグのほとんどが、特別待遇で全国からエリートを集めている。しかし、神奈川大学にその待遇が設けられたのは今年がはじめて。幸嶋監督に声をかけられた小酒部も一般入試であり、経済的負担に対する免除もない。入学当初は190cm代の選手さえいなかったにも関わらず、1部リーグへ昇格させた。特筆すべきは、その後は一度も降格していない。じっくり手塩にかけて育てる幸嶋監督の手腕は、小酒部で実証済み。素晴らしい育成環境を誇る神奈川大学だが、小酒部自身はプレー以外の部分にこそ感謝していた。
「私生活は別にそんなに悪い方ではなかったですけど、例えば、審判に何か不満を言うことに対しては本当に厳しかったです。(大学3年次に)日本代表に呼ばれたことで、手本となる選手を目指して欲しいとも言われ、人間性を学べたことが大きかったです」
大学3年の5月にオファーを受け、プロへ行く決断をした小酒部に科された条件は、年内に必要な単位を取り終えることだった。「先輩方も『4年生になったら全休にしたい』という文化が神大にはありました。そもそも3年で単位を取り終われるように、それまでも授業はしっかり受けていたので順当でしたね」と文武両道で難なくクリア。A東京へ進んだ大学4年次は練習の合間に卒論を終わらせ、大卒の学歴を手にする。
まだまだ多くはないが、Bリーグで活躍する神奈川大学OBもいる。小酒部が卒業後にみなとみらいへキャンパスが移り、その近所をホームにする横浜エクセレンスの増子匠をはじめ、金沢武士団の東野恒紀、しながわシティバスケットボールクラブの尾形界龍はB3リーグでプレーする。B2には山形ワイヴァンズの工藤貴哉が活躍しており、「神大のOBがいるだけでうれしい気持ちになります」と励みにする。ひとつ年下の小針幸也は今シーズンから川崎ブレイブサンダースへ移籍し、早速オフに再会を果たしたそうだ。そんな仲間たちの存在がプロへ決断する際の悩みでもあった。
「僕が抜けることでチームとして戦力が落ちてしまうので、同級生に申し訳ない気持ちが一番強かったです。今まで一緒にバスケをしてきたのに、急に抜けてしまうのが本当に申し訳なかったです。でも、しっかり話し合って、みんなが了承して送り出してくれたので、プロを選択したことは間違っていなかったです」
神奈川大学でのラストシーズンは関東大学1部リーグで12チーム中10位。入替戦にまわったが、「そのときにはすでにプロへ行くことが決まっていたので、絶対に負けられないと思っていました。勝てて本当に良かったです」と東洋大学に2連勝し、1部残留を置き土産に巣立って行った。
弊BBS AWARD 2023-24においてベストディフェンダー賞を押しつけた小酒部の土台は、神奈川大学で培われた。しかし、A東京ではさらなる衝撃が待っていた。
【後編】オフェンスだけでは試合に出られないプロの壁 へ続く
文 泉誠一
写真提供 アルバルク東京