経験という意味では、滋賀レイクスで過ごした昨シーズンもテーブスにとっては貴重なものだった。宇都宮時代の2021-22シーズンはチームがワイルドカードからの快進撃で優勝を果たした中、個人としては48試合出場でスターターは16試合、1試合平均5.8得点3.0アシストという成績だったが、滋賀ではチームが西地区最下位に沈んでB2降格となった一方、テーブスは出場した48試合全てでスターターを務め、1試合平均12.4得点、6.9アシストと数字を倍以上に伸ばした。宇都宮はもとより、滋賀での経験もテーブスを一回り大きくした。
「間違いないですね。ブレックスではゲームコントロールやチームディフェンスを学んで、レイクスではたっぶりスタートでやらせていただいて、プレータイムも貰えましたし、いろんなゲームを経験させていただいて、それで今の自分がある。宇都宮での時間と滋賀での時間は自分にとってめちゃくちゃ大切で、本当に感謝してますし、それと同じくらい今シーズンも自分の成長につながると思います」
A東京は、現時点でBリーグ唯一となる連覇を経験。テーブスも「アルバルクはどのクラブよりも優勝へのこだわりが強いと思います。ファンの方々も優勝じゃなければダメというような熱い気持ちで応援してくれている」と言うように、組織の内外で常に優勝を意識しているクラブだ。そこで得たこの1シーズンの経験も、これから得ていく経験も、全てがテーブス海という1人の選手を形成する要素となる。
「宇都宮ではメインのポイントガードではなかったですし、滋賀では結果がついてこなかった。なんなら何もしてこなかったような選手にポイントガードを託してくれた感謝の気持ちはずっとあって、だからこそ今シーズンは全力でやりたいと思ったし、全試合出たいと思ったし、チャレンジも楽しくできた。優勝できなかったので責任も感じますが、必ずステップアップして優勝できるように頑張ります」
結果的にシーズンの最後の試合となったその直後にもかかわらず、囲み取材ではメディアの質問に真摯かつ落ち着いた様子で答えていたテーブスだが、父に関する質問の際だけは声のトーンが一変した。言うまでもなく、父とはWリーグ・富士通のBT テーブスHC。自身もWリーグファイナルの観客席で父がチャンピオンの称号を得る瞬間を目の当たりにした分、自身も優勝への想いはより募ったはず。質問を受け、おそらく父の勝ち誇る姿が脳裏に浮かんだであろうテーブスは、ほんの一瞬、プロバスケットボール選手から “BT テーブスの息子” に戻った。
「いやぁ悔しいね。たぶんこれで家に帰ってね、お父さんだけ優勝してね、俺は優勝できなかったっていうのは……悔しいですけど、でもこれも経験ですし、お父さんが優勝したのは純粋にめちゃくちゃ嬉しかったですし、モチベーションにもつながったので、来シーズン優勝して並べたらなって思います」
その視線は、すぐに次のシーズンへと向けられた。父の存在も大きな原動力として、テーブス海はこの先のキャリアを築いていくのだろう。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE