連日5千人を超える満員のドルフィンズアリーナは真っ赤に染まっていた。西地区3位、ワイルドカードで日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24(以下CS)へ進んだ広島ドラゴンフライズは、中地区2位のシーホース三河に2連勝し、クォーターファイナルを突破。勢いそのままに、西地区チャンピオンの名古屋ダイヤモンドドルフィンズを79-75で破って、ファイナル初進出に王手をかける。前半に14点のビハインドを背負った広島だったが、17点の活躍で逆転勝利に導いた中村拓人は愛知県出身。地元の中部第一高校時代は、ひとつ年下の河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)と日本一を争ってきた。「後半から自分たちのリズムを作ることができ、勝利につなげることができて良かったです。チーム全体で常にコミュニケーションを取って臨めていることが、良い方向につながっています」と中村は好調さをアピールする。
両チームにとって、セミファイナルは未知の世界。クォーターファイナルのように、簡単には終わらない。迎えた第2戦も、前半に14点リードしていたのは、ホームの名古屋Dだった。後半へ向かう前のロッカールームでは、「昨日と同じ展開であり、自分たちから強く行かなければダメだ」とショーン・デニスヘッドコーチは同じ轍を踏まぬように集中させる。第3クォーター開始早々、ティム・ソアレスの3ポイントシュートが決まり、54-37。後半に逆転した広島の良い記憶を塗り替えるように、スコット・エサトンが広島のポイントガードからボールを奪い、速攻からダンクを決めてさらに突き放す。真っ赤な声援が、コートにいる5人だけではないプラスアルファのエネルギーを攻守に渡って発揮。84-77で名古屋Dが勝利し、逆王手をかけた。
右膝内側半月板損傷による手術のため、寺嶋良が3月から不在となる。その後、先発ポイントガードとしてチームを引っ張ってきたのが中村だ。今シーズンは60試合すべてに出場し、平均約20分間コートに立ち続けた。十分なプレータイムを与えられる中でのターンオーバーは、平均1.2本とミスも少ない。しかし、セミファイナル第2戦は4本を数え、今シーズン最多タイも3度しかない。珍しい記録とともに、そのタイミングも悪かった。先に挙げた後半開始早々、エサトンにスティールされて速攻を許した。第4クォーター残り3分、7点差に迫った場面でもボールを奪われた。ミスをかき消すように、中村の得点で5点差まで詰めたが、最後も名古屋Dのディフェンスに押し出されるようにターンオーバーがついた。
特別指定だったレバンガ北海道から数えて4シーズン目。大東文化大学卒業後、プロになって2年目の中村に対し、「まだまだルーキーのようなもの」とカイル・ミリングヘッドコーチにとっては想定内であり、落ち着かせるようにベンチへ下げた。寺嶋に代わって先発ポイントガードを託すからこそ、「明日はしっかりカムバックしてくれると信じている」と期待は変わらない。ポイントガードのターンオーバーは試合結果を左右するだけに、タフな敗戦だったはずだ。しかし、そんな心配は杞憂に終わる。記者会見場に現れた中村は、すでに気持ちを切り替えていた。