福井においては、田渡は3ポイント以外にも大きな役割を期待されている。チームを率いる伊佐HCとは、昨シーズン途中までSR渋谷で共闘した間柄。様々なキャリアの持ち主が集まった福井で、そのフィロソフィーやバスケットスタイルを誰よりも知っているのが田渡だ。チームの完成度を高めるために、田渡はチームに対して積極的に働きかけており、周囲がそれに応えてくれているという実感もある。
「やってるバスケットもあまり変わらないので、自分がわかってることは他の選手よりも多いと思ってるし、自分が気づくこともすごく多いです。その部分のコミュニケーションは積極的に取ってみんなに伝えようとしてますし、その伝え方も自分が背中で見せながらというのを意識してます。このチームはみんな心が良い人が多くて、素直に聞いてくれるし実行もしてくれる。それが今の成績につながってるんじゃないかと思います。
今日も、10点くらい離れたときに、ベンチで見ててすごく気になったディフェンスがあったので、それはみんなに言いました。チームの雰囲気も緩んでないし、経験値が高い選手も多いのでそこをしっかり締めてくれる。結局最後に勝たなきゃ意味がないので、毎日の積み重ねが大事。それをみんなで共有しながらできていると思います」
このコメントにある「最後に勝たなきゃ意味がない」という言葉は、田渡の危機感を表してもいる。伊佐HCとはまた違った意味で、田渡もB3については「怖いですね、今も」と語る。
「31連勝しようが、1位を走ろうが、結局はプレーオフで勝たないといけない。僕はB1にずっといたので昇格プレーオフというのをやったことがないし、降格(残留)プレーオフもやったことがない。その緊張感はずっとあります。B3はB1と違ってずっと攻め続けてくるし、流れが途切れない。相手のペースにならず、自分たちのペースに持ってくるということを意識しないといけないし、1試合勝っても次にまた成長しないと怖いなというのが正直なところです」
そう語るのも、新たに誕生したクラブの存在意義を重く受け止めているからだろう。福井でプレーしていること自体が、良いモチベーションとなっているのだ。
「プロバスケットボールのチームがなかった福井に僕たちが来た意味も本当に大きいと思います。日常が楽しくなったとか、ブローウィンズの話題が家庭の中でも出るとか、福井県の皆さんにそう言ってもらえることが多くなったので、B3にどういう影響を与えているかということよりも、福井に対して良い影響を与えられるようにやるだけだと思います。長崎ヴェルカが最速でB1に上がりましたが、昇格してすぐチャンピオンシップに行ったチームはないし、僕たちは優勝まで目指したい。そこまで行けたら、バスケット界も何か変わるんじゃないかなと思ってます」
この日の試合会場、江戸川区立スポーツセンターは比較的実家に近く、両親はもちろんのこと、高校までの仲間も大勢駆けつけたという。少しでも早くB1まで駆け上がり、より注目を浴びる舞台に再び立つことも、田渡にとっては大きなモチベーションとなっているに違いない。
文・写真 吉川哲彦