得点とアシストで個人ランキング1位争いを演じている河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)に対しては、その自由を少しでも奪うことがどのチームにとっても重要な戦略となる。勝利を引き寄せるためには “河村対策” が不可欠だ。
3月23日に行われた試合でも、対戦相手の長崎ヴェルカは多くの選手を河村にマッチアップさせ、プレッシャーをかけ続けた。チームのベストディフェンダーである松本健児リオンや髙比良寛治に加え、サイズのある馬場雄大が河村と対峙する時間帯もあった。そんなことはお構いなしと言わんばかりに18得点15アシストという数字を叩き出した河村のパフォーマンスには舌を巻くほかないが、試合は90-76で長崎に軍配。長崎のゲームプランには一定の成果があったと言えるだろう。
もう1人、河村にマッチアップした選手として、ディクソンジュニアタリキの名前を挙げておかなければならない。この日のディクソンは15分17秒に出場し、3ポイント2本の6得点と4アシスト。スタッツとしては平凡なものかもしれないが、メインの仕事は河村に対するディフェンス。ベンチスタートではあったが、カイ・ソットを上手く守ったジェレミー・エヴァンスとともに後半はスターターに起用された。試合後の記者会見に臨んだ前田健滋朗ヘッドコーチも「この2人はディフェンスでしっかりスイッチを入れてくれたと思います。非常にソリッドなディフェンスをしてくれたのが大きかったので、後半スタートに使いました」と、その理由がディフェンス面にあったことを明かす。
クラブがB3に参戦した2021-22シーズン、トライアウトを経て長崎の創設メンバーの1人となったディクソンは、3試合連続で20得点をクリア、スターター起用9試合など、ルーキーながら主力の一角を担った。当時から特に評価が高かったのがディフェンスで、6スティールをマークした試合もあった。
しかし、クラブがB2で戦った翌シーズンは開幕から約1カ月で戦線離脱すると、結局そのままシーズンを終えることとなった。B1で迎えた今シーズンは一旦選手としての肩書を外さざるを得ず、ユーススクールアドバイザーとしてクラブに残っていた中、シーズン開幕後に熊本ヴォルターズからのオファーを受けて選手に復帰。熊本ではスターター起用もされたが、1カ月で長崎に呼び戻され、再びネイビーのユニフォームを着た。
積極補強を施し、B1仕様のロスターを揃えた中ではベンチ登録もままならず、出場機会は限られていたが、横浜BCとの第1戦では第1クォーター残り6分55秒という早いタイミングで出番が訪れた。“河村対策” を講じた中で、ディクソンのディフェンス力が期待されたということは、記者会見での前田HCの言葉からも容易に窺える。プレーの評価について質問を受けた前田HCがディクソンのここまでの歩みにも言及したのは、その苦労を間近で見てきたからだ。
「ディクソンに関しては、去年からかなり苦しい状況が続いていました。ケガでシーズンを棒に振って、今シーズンも最初はロスターではなく、レンタルのような形で熊本に行って、12月に戻ってきてからもベンチに入ることがほとんどなかったんですが、それでも彼は今やるべきことに集中して、練習でも常に全力でやってくれていました。彼の良さはB3のときから知ってますし、今日のパフォーマンスも彼が特別なことをしたとは全く思ってません。彼はあれくらいできる選手ですし、もっとできる選手。いろんな難しい状況の中でも努力し続けるというところが、今日につながったと思ってます」