福祉の世界で生きていることは、伊藤良太という1人の人間の器をより大きくした。岩手を拠点とする福祉系ベンチャー企業・ヘラルボニーに籍を置いている伊藤は、「ひたむきに取り組むとか、誰よりも一生懸命に練習するとか、そういうメンタリティーの部分はビジネスの世界でも生きてくるし、キャプテンもやらせていただいたので、どうやって仲間をチアアップするかとか、困ってる人がいたら声をかけるとか、メンバーの個性はもちろん全然違いますが、組織の中で何をするかというのは一緒だと思います」とバスケットの経験を還元してきたということだが、逆に福祉の世界から学んだことも伊藤にとっては大きかった。東京にもオフィスがある中、現在はオンラインで仕事をこなすことが多いとのことだが、「練習場の近くに住んで、練習が午後だったら午前中は家で仕事をして、練習から帰ったらまた仕事という生活」は、心身両面の負担も少なくないことだろう。しかし、伊藤本人は大変さをおくびにも出さず、充実感を強調する。それもやはり、「どんどん還元したい」という意欲の表れだ。
「こうやって好きなスポーツを思いっきりできてるのも当たり前じゃないんだなって気づかせてもらいました。障害があることによってチャレンジできない人もたくさんいる、そういう社会だということがわかって、自分はそこを知ってる人間だからこそ、機会をどんどん作っていきたいです。その熱量はバスケットと同じくらいあるので、自分はそこに人生をかけてチャレンジしたいと思います」
B2にもいわゆる “Bリーマン” がいるとはいえ、仕事とバスケットを掛け持ちする上では、B3が最もそれを許容される環境であり、それこそがB3の大きな特徴だ。日本のバスケット界が発展を続ける中、一度は手に入れたプロの肩書を捨て、再び二刀流に臨んでいる伊藤はそこに意義を見出している。
「自分にできることは大したものではないんですけども、福祉のベンチャーに勤めてる経験を他のアスリートに見せてあげることはできるかなと思います。こういうキャリアもあるんだよということは、子どもたちにも伝えることができますし、自分だからこそ発信できることで、他のアスリートに気づきを与えるとか、社会に関心を持ってもらうだけでも大きな一歩だと思うんです。しながわシティのメンバーもヘラルボニーを知ってくれてますし、それだけでも一つ前進してると思うので、小さなことから行動したり発信することが大事だと思います。
プロ選手だからといって、アスリートは仕事しちゃいけないということではないと思います。こういうキャリアがあっても良いと思うし、個人的にはそれがB2やB1でもあって良いんじゃないかと思ってます。いろんなキャリアを応援できる社会であってほしいし、一つの選択肢として、僕が頑張ることによって『あんなことやっていいんだ』って少しでも思ってもらえたらいいなと思ってます」
しながわシティというクラブもまだ3シーズン目にすぎないが、伊藤の新たなチャレンジもまた始まったばかり。そのキャリアが多方面に良い影響をもたらし、1人でも多くの人にとっての道標になることを願いつつ、その一挙手一投足に注目していきたい。
文・写真 吉川哲彦