夫人による「バカじゃないの」という発言は、伊藤代表兼GMの人生が「チャレンジしてこそ」であることを物語る。アルバルク東京のHCを退任して再び渡米する際も、そしてまた日本に戻ってくる際も、夫人の一言は伊藤代表兼GMの背中を力強く押した。
「アメリカに行くときも『拓摩はアメリカで何を成し遂げたいの?』と言われたんですが、当時はHCとしての目線しかなかったので『より良いHCになって戻ってくる』と言ったら『はぁ?』って(笑)。一瞬喧嘩になりかけたんですが(笑)、彼女が言いたかったのは『日本のバスケットボールを変えてやるくらいの心意気がないと、アメリカに行っても意味ないでしょ』ということだったんです。そこで目線が変わりましたね。テキサス・レジェンズに行ってバスケット以外のところも学ぼうというのはその一言があってのことですし、人生の変わり目にはいつもそういったアドバイスをしてくれますね」
クラブ創設の契機となった張本人である伊藤代表兼GMは、クラブ全体が順調に進化してきた今、その心中が「長崎に来て本当に良かった」という想いで満ちあふれる。
「長崎に来たときはチーム名もなく、選手もスタッフも1人もいない本当にゼロの状態。そこから、この街をバスケットで盛り上げて、地域創生をしていこうという仲間が増えたことが感慨深いですし、仲間と一緒に大きなことを達成しようとしてるというのが、今の僕にとって一番のワクワクです」
B1最速昇格などの目標を達成してきたとはいえ、Bリーグの中ではまだクラブとしての歴史が浅い部類であることも事実。この先の道のりは長く、伊藤代表兼GMのチャレンジはまだまだ尽きない。
「皆さんから優しい言葉をかけていただくんですが、もともとB1に行くことが最終目的ではなく、やっと本当のスタートに立てたところです。大事なのは、本当に魅力のあるクラブ、ヴェルカというバスケットボールチームがあって良かったと思ってもらえるようなクラブになっていくこと。今シーズンからが本当の勝負だと思っているので、さらに気を引き締めて良いクラブ、良いチームを作っていきたいと思います」
最後に、B1に昇格した今シーズンは、伊藤代表兼GMにとってはやはり特別なシーズンであることを示すトピックを紹介しておこう。12月13日には天皇杯で、その週末にはリーグ戦で、いずれも古巣のアルバルク東京と激突。しかも、今A東京で自身と同じGM職を担っているのが、弟の大司であるという点だ。同じ立場となってからは連絡を取る機会も増えたという伊藤代表兼GMは、人生初対決を前に「兄弟対決を全く意識してないというと嘘になる(笑)」と本音をのぞかせた。
しかし、いざ天皇杯を迎えると、長崎の一員としての意識が先行。「試合前は兄弟対決を意識しましたが、試合が始まったら、立ち上げのときに『いつかアルバルクのようなチームを倒せるように』と思ったなぁというのを思い出して、そっちのほうに浸る想いがありました。弟のほうが意識してたかもしれないですよ(笑)」と、長崎の地に降り立ってからの自らの歩みに想いを馳せ、古巣に勝利したことを喜んだ。4年余りの願いが結実し、伊藤代表兼GMはさらなるチャレンジへ一歩を踏み出す。
長崎ヴェルカ 伊藤拓摩代表兼GM
長崎ヴェルカを作った男の終わりなきチャレンジ
前編 https://bbspirits.com/bleague/b24012501ito/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b24012602tkm/
文 吉川哲彦
写真提供 長崎ヴェルカ