荒谷の例が如実に示す通り、クラブと選手の双方にメリットのある選手獲得が理想。伊藤代表兼GMが強化責任者として第一に考えているのも、まさにその点だ。シーズン開幕後には、ジェフ・ギブスがサンロッカーズ渋谷へ、ディクソンジュニアタリキが熊本ヴォルターズへそれぞれ移籍する(ディクソンはその後長崎に復帰)という出来事もあった。過去2シーズン大いに貢献してきた2人は、今シーズンは選手契約に至っていなかったが、引き続きクラブの一員としての仕事に従事していた。伊藤代表兼GMは、長崎ヴェルカというクラブに関わることが、その選手・スタッフのキャリアに何かしらのプラスをもたらすということも重視しているのだ。
「選手やスタッフに声をかけるリクルートの段階で常に軸にしているのは、どのようにWin-Winの関係性を築くかということです。どちらかの願いが100%叶うわけではないので、交渉する中でお互いのWinは何なのか、なるべくお互いがハッピーになるようにということを意識して話をするようにしています。ジェフもディクソンも選手としてやりたいというのがあったので、ジェフの場合はサポートコーチをしながら一緒に練習して、どこかから声がかかればという契約でしたし、ケガがあったディクソンは、中山(佑介ディレクター・オブ・スポーツパフォーマンス)さんやメディカルチームへの信頼があって、差し当たっての一番の環境がヴェルカということだったんです。移籍が決まる1週間か10日くらい前にちょうど彼と話をしていて、ヴェルカにとっては彼がいることがもちろん良いんだけど、まだ若いし、もしB2のクラブから声がかかって試合の経験ができるんだったらそれも良いねということも言っていたんです。彼にとってのベストは何なのか、クラブが選手のために何ができるかを考えて、それを応援して成長してもらうということが一番だと思うんです。ヴェルカの選手に限らず、同じバスケットボール業界の仲間として、どの選手・スタッフでも一度関わったら可能な限りサポートしたいという気持ちはありますね」
チーム編成にあたっては、当然ながら現場の希望を聞く必要があり、伊藤代表兼GMも前田HCとは密に意見交換している。クラブ創設時からヴェルカスタイルを共有し、「HAS IT」というチームスローガンを最も理解している点で、伊藤代表兼GMは前田HCに全幅の信頼を寄せる。32歳という若さでチームを率いる前田HCの存在もまた、長崎にとっては非常に大きい。
「若いコーチの中では確実に力のあるコーチだと思いますし、ポテンシャルがあると思ってます。HC1年目から2年目でしっかり成長してると思いますし、何よりバスケットに対する情熱と、戦略・戦術の面では日本でトップレベル。私の場合は、アルバルク東京でもそうだったんですがHCの仕事以外にもいろんなところに興味があったんですよ。でも、彼はコーチングが大好きでそれに没頭できる。それが彼の強みだと思いますね。自分の時間を、知識や知見を高めるための勉強に費やしている。成長し続けるコーチだと思いますし、今シーズンだけを見てもシーズンを通して成長していくと思ってます」