今シーズン、自分の活躍の場が広がっているのは「あくまで仙台のオフェンスができているうえのことで、伸びた得点もあたりまえですけど、1人で取れているわけではありません。周りの選手が僕がやりやすいように動いて、僕の力を引き出してくれるおかげだと思っています」と謙虚な言葉が続く。だからこそ、その仙台のオフェンスを自分が崩してしまったと感じたときはひとしきり悩むそうだ。
「悩みますね。いつも悩みます。仙台に来て活躍してるねと言われても、その分悩みの数は増えている気がします(笑)」
ただし、手ごたえはある。それを最初に感じたのは10月7日の開幕戦だった。相手は地力で勝ると言われるアルバルク東京。立ち上がりから苦しい展開が続き、前半で36-55と大きくリードを奪われるが、ハーフタイムに自分たちがやってきたスカウティングを見直し、やるべきことを再確認したことで後半に入ると流れが変わった。逆転に成功したのは4クォーター残り2分46秒。そこからA東京が猛反撃に出て結果的に78-86で敗れたものの「一時的とはいえ20点のビハインドを覆したことはチームの自信につながった」と言う。
「格上と言われるチームが相手でも最後まであきらめずに食らいついていくことで勝ち目を見出すことはできる。うちにはその力があると思えました。それは多分みんなも同じ。あのゲームを経験したことで、これからどんなチームと戦ってもチャレンジャー精神を忘れずにうちのバスケットを見せてやるって気持ちになったと思います」
だが、白星を勝ち取るのはそう容易くはない。1月1日の第15節が終了した時点で仙台の成績は12勝14敗と勝率5割を下回る。後半戦に向けて一段ギアを上げたいところだが、その思いはどのチームも同様だろう。
「その中で勝ち抜いていくためにはチームとしてもっと成長しなければなりません。自分のモットーというか、心がけているのは “今日より明日” 今日良かったこと、今日踏み出せた一歩を明日のスタンダードにしようということです」
脇役だの主役だの、周囲の声は関係ない。大事なのは一歩ずつ着実に成長できているかどうか。
「自分はなんのために仙台に来たのかを考えるんですね。来た以上は『来てくれてよかった』と思ってもらえるような存在になりたい。みんなと一緒に強い仙台を作っていきたい。今、頭にあるのはそのことだけです」
当たったスポットライトの中でも浮かれることなく、 “増えた悩み” と向き合っていく。『今日の一歩を明日のスタンダードに』── 仙台のコートに立つ阿部諒は、ほら、やっぱり誰よりも “真面目な選手” なのだ。
仙台89ERS #13 阿部諒
今日の一歩を明日のスタンダードに
前編 仙台で自分の可能性を追求していきたい
後編 周りの言葉に浮かれている暇はない
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE