今日の一歩を明日のスタンダードに(前編)「仙台で自分の可能性を追求していきたい」より続く
周りの言葉に浮かれている暇はない
仙台の寒い冬の朝、阿部諒は毎日8時半前後に体育館に到着できるよう家を出る。人気のない体育館はさぞ冷え冷えしているのではないか…と思いきや「いえ、僕が着くころにはもうあったまっています」と笑う。聞けばもっと早くからトレーニングを始め、熱気で温度を上げてくれている選手がいるらしい。
「ソルジャー(片岡大晴)ですね。毎朝7時過ぎからトレーニングをしていて、僕が(体育館に)顔を出すともう汗だくになっています。おかげですでに体育館はあったかいんですよ(笑)」
身支度を整えトレーニングを開始するのは9時。そこからワークアウトに移り、昼食をはさんで午後1時からのチーム練習に備える。
「チーム練習はだいたい2時間ほど。終わったらしっかり身体のケアをして、家に帰るのは4時から4時半ぐらいかな。試合がない日はだいたいそんな感じで過ごしています」
幸いなことに移籍してからチームに馴染むまでさして時間はかからなかったという。
「みんなが本当に気持ちよく迎えてくれたので、すんなりチームに溶け込むことができました。同期の青木(保憲)や1歳上の澤邉(圭太)さんとは今もよくご飯行ってますね」
だが、普段どれほど仲が良くてもバスケット選手としてのリスペクトは忘れない。
「たとえば10月21日、22日の千葉ジェッツ戦はアウェーで1勝1敗だったんですが、このとき青木が欠場しててすごく心細かったんです。それで次の群馬(クレインサンダーズ)戦に青木が戻ってきたときホッとしました。ほんとに安心したというか、心強かったというか。改めてあいつはチームに欠かせない頼りになる男だと思いました。頼れる男という意味ではソルジャーも同じです。38歳のソルジャーが常に熱くチームを鼓舞してくれるおかげで僕らは安心してプレーすることができます。めちゃめちゃリスペクトしているし、仙台に来て、こうした仲間とプレーできることは幸せだと思っています」
そして、今 “こうした仲間” とともに目指しているのは『もっと上に行くための土台作り』だ。「まさに土台作りの真っ最中ですね。勝ったり負けたりはありますが、今のところいい土台を築けてると感じているので、これからどんなチームになっていくのかすごく楽しみです」
自分はその “土台作り” の一員。だから、今シーズンの活躍に『阿部、覚醒!』。『阿部、いよいよ本領発揮!』、『仙台の新エース誕生か?』などと周りがどれだけ騒ごうと「心は揺れません」と言い切る。
「積み重ねてきたものが花開いたねとか、脇役から主役になったねとか言われることがあっても、自分にはそういう感覚が全然ない。というよりそんなふうに思える余裕がないんです。自分が入った仙台をどうしたら勝たせられるかで頭がいっぱいで、周りの言葉に浮かれている暇なんて全くないんですよ」
試合が終わったあと、自分のスタッツで真っ先に目をやるのは「ターンオーバーのところ」だと言う。
「何分試合に出たとか何点取ったとかよりもマイナスの部分が気になります。別にネガティブな意味ではなく、ターンオーバーの数を見ながら、どうやれば次にそれを減らせるか考えるんです。そうすると自然に反省点が見えてくるというか。あそこはボールを持ち過ぎてたなあ、仙台のオフェンスはこうなのに自分がその流れを崩してしまったなあみたいなことが浮かんでくるんですね」