昨シーズンの仙台を振り返れば、昇格したB1の舞台で東地区最下位(19勝41敗)。B1で戦う厳しさを感じた1年だったと言える。だが、阿部が仙台から受けた印象は悪いものではなかった。
「仙台と対戦したのは去年(2022年)の11月だったんですが、何点離されてもあきらめずに食らいついてくるんですね。とにかくディフェンスが崩れないんです」
その印象は入団した今も変わらない。いや、むしろ “より深まった” と言っていいだろう。
「仙台の強みはなんといっても前線からプレッシャーをかけていくディフェンスにあると思っています。それを外国籍選手を含めた全員で遂行する。常に全員が同じ方向を向いている一体感を感じますね」
その中で見つけた自分の課題の1つは『伝えること』だ。
「僕は島根でB2とB1を経験しています。もちろん、仙台が辿った道、これから辿る道は島根とは違っているでしょうが、それでもあのときはああだったな、あんなことがあったなと思い出すことも多くて、そうした経験をここで役立てることができればいいと思っているんです」
たとえば、若手選手へのアドバイス。
「僕と同じポジションには岡田(泰希)、渡部(琉)と若い選手がいますが、今フォーカスしているのは、彼らに自分の経験をどう伝えていくかということです。やっぱりB1に上がって2年目、3年目は、結果を残したい気持ちが強くなると思うんですね。その分、どうしても焦ってしまうところがある。焦りがプレーの判断ミスにつながることも多くなる。自分が攻めるべきところで躊躇したり、周りを活かすべき場面で無理なシュートを打ったり。そんなときは『おまえが今やるべきことはそれじゃないだろ』と言うようにしています。もっと落ち着いていこうよって」
正直に言えば、言葉で何かを伝えるというのは「得意じゃない」そうだ。
「だから、どういう言い方をすればうまく伝わるのかな、腑に落ちてもらえるかなっていつも考えてますね。後輩が真面目で素直な子ばっかりなので助かってますけど(笑)」
しかし、一方で若いチームの長所である『まっすぐな真面目さ』が時としてチームの短所になることも知っている。
「そうなんですね。なんていうか、今のチームには不真面目さが足りてないんです。不真面目という言葉が合っているかはわからないけど、勝とうと思ったらズル賢い駆け引きも必要になるじゃないですか。うちにはまだそこが足りません。みんなの性格の良さがそのままプレーに出ちゃうんですよね。強くなるためにはもう少し不真面目に、もう少しズル賢くならなきゃダメだと思っています」
いい意味での “不真面目さ” をどう伝えたらいいか。
「それも自分の役割だと思っています。言葉を噛み砕いて、あるいは背中で見せるプレーで。いや、伝えるって本当に難しいですよね」
真剣な顔でそう繰り返す阿部を見ながら思わずこんな言葉をかけたくなった。
「一周まわって、一番真面目なのは、日々不真面目について考えている阿部さんじゃないですか」
今日の一歩を明日のスタンダードに(後編)「周りの言葉に浮かれている暇はない」へ続く
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE