今は当然のように、チームに1人しかいないHCの重責を果たすため、チームマネージメントの仕事に集中している。HCという激務に臨む上では、多くのコーチを参考にしているということだが、最も良い手本となっているのは、鹿児島時代にHCと選手の関係で共闘した父・俊秀氏だろう。東京Z戦の2試合は、その父が観戦に訪れていた中での試合でもあった。父という最も身近な存在から受けた影響について、本人はこう語る。
「伝授されたというか、それともDNAなのかはわかりませんが、一番は選手1人ひとりの表情を気にすることですかね。最終的にこの試合はこれでいくと決めたらそれを貫くとか、元気のない選手がいたらちょっと声をかけるとかは、父と一緒なのかなと思いますが……どうですかね。ちょっと難しい質問ですね。でも、選手にとって良いモチベーターでありたいというのは間違いなくありますね。越谷(アルファーズ)の安齋(竜三)HCの記事を以前読んだんですが、試合で出ない選手って何のために練習してるかわからないじゃないですか。だから僕も、1人でも多く試合に出したいというのがあるんですよ。選手が準備する姿勢を見せてくれたら、僕にはその選手にチャンスを与える役目があると思いますし、そういったところはいろんなコーチを見て勉強させてもらってるところです」
縁あって山口の一員となり、指揮官の仕事も任されることとなった今は、地域から愛されるチームを目指し、クラブをPRすることにも意識を傾けている。「コロナ禍で声を出す文化がないところから始まりましたが、お客さんが恥ずかしくても声を出したくなるような熱いバスケットを見せていけたらと思います。地域貢献の取り組みもどんどん考えていって、自慢できるようなチームにしていきたいです」という鮫島選手兼HCは、クラブにアイディアを話したこともあるそうだ。
「以前フロントスタッフに、試合前の会場に子どもたちを呼んでクリニックをしたいと相談させていただいたんです。他のクラブがしてないことをまず僕たちがやって、そういったことでお客さんを集めたい。プロが試合するコートで練習する、シュートを打てるってすごいことだと思うんですよ。それが終わってから、自分が練習したコートでプロの選手がシュートを決める、ダンクするのを見るというのは夢が広がるじゃないですか。これはぜひ期待しててください」
その数日後にクラブから発表された1月21日開催予定のイベントは、鮫島選手兼HCの提案そのものだった。拠点である山口県と宇部市の盛り上げを期し、「今、本当にチームが一つになりつつある。1人でも多くの方に、成長するプロセスを見てほしい。一緒にプレーオフに行きたいです」と語るその言葉には自然と力がこもる。コーチとしてはルーキーながら、クラブのため、地域のために尽くそうとする鮫島選手兼HCが引っ張り、山口パッツファイブは前に進む。
文・写真 吉川哲彦