人間は変化を嫌う。
ホメオスタシスを備えた人類は自らの状態が一定に保たれることを求め、その性質は身体だけでなく心理にも及ぶ。
現状が悲観的でない場合にはその傾向が一層強まることだろう。
だが京都ハンナリーズで中心的存在へと成長を遂げ、チーム内での確固たるポジションを手に入れた久保田義章は、昨シーズンオフに大きな決断をし、自身の環境を大きく変えた。
久保田はシーホース三河への移籍を「すごくワクワクしていました」と語る。
「自分にとって初めての移籍ということで、不安もありました。でもヘッドコーチが新しく変わって三河の新体制がスタートするタイミングでその一員になれたことに感謝しています。」
昨シーズン終了時に発生したリーグ内の最も大きな変化といえば、間違いなく鈴木貴美一氏の退任であろう。
氏が率いた28年もの間、チームは安定した強さを誇った。
一時代を築いた名将の元には歴代の名選手が集まり、コート上で持てる能力を遺憾無く発揮し、実に多くのバスケットファンを魅了した。
久保田もその姿に心を動かされた一人だった。
「自分がプロになると決めてから、キャリアの中で一度は三河というチームに入団してみたいという思いを持っていました。やっぱり強くイメージに残っているのは比江島(慎)さんだったり、金丸(晃輔)さんだったり。ずっと強いチームだという印象がありましたし、自分が京都に入ってから対戦したときにも強かった。」
バスケットボール選手として目指す場所の一つだったチームからの誘いは、約束された居場所から飛び出す十分な理由となった。
今シーズンからヘッドコーチとして三河を率いるライアン・リッチマンが目指すバスケットスタイルは「ハードなディフェンス」、「速い展開」と、それから「ポゼッション数」だと久保田は語る。
新しいチームにコンセプトが浸透するには時間がかかるもので、シーズン序盤は勝率5割付近をなかなか抜け出せずにいたが、「バイウィークが明けてからは以前よりも徐々に定着してきた」との言葉通り、目に見えて成果が現れ始めた。
チームとしての方向性をはっきりと定めたうえで、リッチマンHCが久保田に求めるものはそのオフェンス能力だ。
「京都時代に比べるとオフェンスの面では自分がメインでやるよりも、ポイントガードとしてコントロールに回ったりする部分が多くなってきています。でもヘッドコーチは自分が得点を取れるガードだということを認識しているから、コントロールも大事だけどもっとシュートのアテンプトを増やしたり、積極的にゴールにアタックしろというのはいつも言われています。」
ダバンテ・ガードナー、西田優大などの強力なタレントを多く擁する三河でのプレーは、それまで持ち合わせていた感覚を大きく揺さぶられる場面もあるだろう。
しかし周りを活かす、というポイントガード本来の役割に留まらず、タレント集団の一員としての攻撃能力を久保田に期待するリッチマンHCは、選手起用の仕方にその想いを込める。
「ユニットに関しては、優大とダッシュ(イ デソン)と一緒に出るときはディフェンスも頑張らないといけないんですけど、得点面を期待しているんだと思います。後から入ってくる長野(誠史)選手、石井(講祐)選手、角野(亮伍)選手はチームの中でもディフェンスができる。尚且つ早い展開に持ち込めるっていうユニットだと思うので、オフェンシブなユニットとディフェンシブなユニットで使い分けてるんじゃないかなって僕は思います。」