多くの選手を積極的に起用し、ゲームの中で成長を促す手腕
特別指定を除き、2年目の佐土原は24歳。今シーズンより来日したアーロン・ヘンリーは同い年であり、杉本と鍵冨太雅はそのひとつ上の学年となる。川嶋勇人と根來新之助らベテランとともに、新戦力が新たに加わったFE名古屋。エヴァンス・ルークは復帰したばかりであり、相馬卓弥と笹山貴哉は負傷欠場し、まだまだチームは安定しない。「年内はチームビルドに時間を費やしてきた」と川辺ヘッドコーチは、慌てることなくチームの基礎を築くことに注力する。また、選手たちの可能性を広げるチャレンジを優先し、チームとしてステップアップに努めている。
横浜BC戦では杉本をはじめて先発で起用した。前節の仙台89ERS戦では17点を挙げ、コンスタントに二桁得点をマークし、調子を上げている。「オフェンスやシュートに関しては天才」と川辺ヘッドコーチは評価して迎えたが、ディフェンスでは課題が目立っていた。一から見直し、チームディフェンスを習得してきたことで「ボールプレッシャーをがんばり、ジャンプ・トゥ・ザ・ボール、チャレンジショット、最近であればタグアップしてリバウンドに参加するところまで非常に成長を見せている」という川辺ヘッドコーチの信頼を勝ち取った。
杉本自身、「交代で出ていたので、ゲームの流れをどんどん良くすることを率先し、リバウンドやディフェンスでがんばることだけを意識していました。ディフェンスをがんばれば、自然とオフェンスにもつながると思っています」とその期待に応えはじめている。横浜BC戦は4点だったが、課題だったディフェンスや、オフェンスでもスクリーナーとして泥臭く体を張り続けた。
同じく先発を任されている佐土原は、「運も間違いなくあった」とエヴァンスのケガによって出番が回ってきたことを認める。広島ドラゴンフライズ時代は「どちらかと言うとあまりボールに触れる機会がなかった」が、川辺ヘッドコーチの下で新たなプレースタイルにチャレンジしている。オフには3×3日本代表に取り組んできたことも功を奏し、「ハンドラーの要素やアタックするメンタリティーが鍛えられました」と自信を持って練習からプレーで見せ、チームとの信頼関係を築いて行った。
横浜BC戦を振り返る佐土原は、「自分たちのゲームプランではなかったが、それでも自分たちで相手の流れを断ち切って、良い流れをしっかりと持ってくれることができていました」という第3クォーターは手応えが感じられた。敗戦は多くの課題が浮き彫りになるが、切り取って見ていけば必ず成功体験もある。若い選手にとって、そこを摘んでいくことで自信につながる。
多くの選手をどんどんコートへ送り出し、良い案配で手綱を緩めながら挑戦させる川辺ヘッドコーチの手腕が光る。ケガ人が多い中でも勝ち星が先行している状況は、選手たちに自信も与えている。「1番大事なことは、僕たちが成長しながらチャンピオンシップを目指すところ」と川辺ヘッドコーチは光を照らし、戦う若鷲軍団を着実に前へ進めていた。
文・写真 泉誠一