── 新しいシーズン前には選手の入れ替わりもあります。誰をカットして、誰を迎えるかを決めるのも仕事の1つでしょうか。
伊藤 そうです。次のシーズンの選手に関してはコーチ陣と話し合って決めるわけですが、自分にとってはこれが一番きついというか、心情的につらい仕事です。入れ替わりは選手に限りませんが、コーチ陣にせよ、選手にせよ、カットする人には「あなたはもう明日から要りません」と言わなくてはならない。もちろん、そんな言い方はしませんよ。しませんけど、結果的にそう言っているのと同じですから、本当に、これはもうめちゃくちゃきついです。
── ご自分もプレーヤーだっただけに余計につらいところがありますよね。
伊藤 あります。選手の気持ちがわかる分つらいですね。だけど、それも覚悟した上でこの仕事に就いたわけですし、自分が求めているチームを作るためには避けては通れないことですから割り切らなければなりません。意識しているのは、カットを伝えるときは言葉を選んでていねいに説明すること。僕の場合、伝える相手が(数年前まで)元チームメイトだったり、元対戦相手だったりすることもあり、もし自分が選手だったら、そういう人からカットの話をされるのは納得しづらいと思うんですよ。だから、自分はGMであることを意識して、誠心誠意、相手に納得してもらえるよう話すように心がけています。
── 今、元チームメイトだったり、元対戦相手だったりという話が出ましたが、GMの立場として選手との距離感はどのように取っているのですか。
伊藤 それが難しいんですよ(笑)。たとえばアドマイティスHCが来たとき、コーチと選手との間にどんな距離感があるのか知りたいと思ったし、自分もその中に入った方がいいのかどうか迷いました。(選手と)話をするのはもちろん大事ですけど、近すぎてはいけないとも思いますし、正直、なかなか正解がなかなか見つからないんですね。今はまだ模索中といったところです。
── 迎え入れる選手についてはどこにどんな選手がいるのか、常にアンテナを張っていなければなりませんね。頭の中には四六時中バスケットでいっぱいなんじゃないですか。
伊藤 おっしゃる通り、四六時中バスケットのことを考えています。中学、高校、大学の試合も見に行きますし、行けないときは代わりに行ってもらったアシスタントコーチから必ず話を聞きます。海外でプレーしている日本人選手、また有望な外国籍選手の情報は常にチェックして、いろんなエージェントと連絡を取り合うのも大事な仕事。時差の関係で真夜中にかかってくる電話が多いのはつらいですが(笑)。その他にも、選手にケガがあった場合の対策、イベントの立案など、もろもろのことをいつも頭に入れておかなくてはなりません。引退してからボーッとしている時間がまったくなくなりました。
── ヘロヘロになることはありませんか。
伊藤 あります。もちろん、ありますよ。たまに自分でも「俺、きつい仕事してんなあ」と思いますもん(笑)けど、頑張って成果が出たときは、あたりまえだけどめちゃくちゃうれしいんですね。なんて言っていいか、うわぁーと全身に鳥肌が立つよう感覚、あの感覚は一度味わうと病みつきになります(笑)。しんどくても投げ出さず、踏ん張ってよかったなあって、今もその繰り返しの中で頑張っています。
後編『選手たちとポジティブなエネルギーをシェアしていきたい』へ続く
文 松原貴実
写真提供 アルバルク東京、B.LEAGUE