残り33秒で1点差に迫られたときは、ブースターも内心穏やかではなかっただろう。しかし、その後は長崎がフリースローのチャンスをものにできず、ファウルゲームに持ち込まざるを得なかった。そこで3度にわたってディフェンスリバウンドを取りきり、ファウルを受けたのが山口。この日の16得点のうち9点までがフリースローによるものだったが、最終的に4点差だったことを考えると、山口が最後に決めた4本のフリースローは非常に価値が高い。
「最後の勝負どころ、絶対に外したらダメという場面で4本決めることができた。集中してプレーできたと思いますし、勝利に貢献できたと思うのですごく嬉しい気持ちです」
初勝利の相手が長崎だったことも大きかった。B1昇格初年度ながら、昨シーズン準優勝の千葉ジェッツを開幕節で連破するなど、前日まで8勝2敗。その長崎を止めたことは、茨城にとって転機にもなり得る。
「本当にそうだと思います。勢いのあるチームで、大型補強もして手強い相手だと思ってたんですが、すごく走るチームに走り勝てたということが自信になります。この後の試合の相手がアルバルク(東京)と三遠(ネオフェニックス)で、東地区と中地区で1位を争うチーム。ここでも今日みたいに走るバスケットができたら面白いと思います」
この1勝を転機にするということは、実は前日の時点で山口の頭にあった。連敗が2ケタに達したことで、逆に山口はスイッチを入れ直すことができたようだ。
「昨日、冗談でフロントスタッフに『明日が開幕1試合目だから』という話をしたんです。10連敗してしまったんですが、こうやって11試合目に良いスタートが切れたので、チームとしてもここで気持ちを切り替えてやっていけると思います。ここから上がっていく自信はあります」
こういったポジティブシンキングはどうやら山口の取り柄らしく、試合後のヒーローインタビューでも性格の明るさが存分に表れた。「ムードメーカーというわけではないですが、ちょっとおちゃらけた性格ではあるのかなと思ってます(笑)」という山口は、「チームを盛り上げていくのは僕の仕事だと思いますし、例えばブースターさんを煽るというのも1つの作戦ではあると思うんですが、そういうことができるのは、このチームでは僕かなと思います」というように、どんな状況でも雰囲気を良くし、皆が前を向けるような行動、言動を心がけていきたいとのことだ。
年齢的にはまだ若手でありながら、山口は自身を「今のロボッツの日本人選手でいえば中堅の立場」と認識している。「若手というだけのプレーをしてはいけない。若手らしい勢いのあるところと、少し落ち着いたところと、両方出していくのが良いのかなと思ってます」という考えは、チームの主力の1人であるという自覚の表れだ。チームとしてようやく1つ結果を出したことで、責任感をにじませながらチームを引っ張る山口の存在感はこれからますます大きくなっていくに違いない。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE