楽しくなければ(中編)より続く
「気づくことはいっぱいありますけどね、見てて。でもなにも、グッと堪えて言わないようにはしています。」
その心中は察するに余りある。
「若手がみんなでもがいて、作り上げる」チームを目指し、京都ハンナリーズの編成を進めてきた渡邉拓馬GMの選手時代は、若さの対極にあった。
的確な選択を武器としたかつての名プレーヤーは、有り余るほどの勢いを目の当たりにし、自分ならば、と思うことはないのだろうか。
「自分がやりたいとは…思わないですけど、やっぱりこう、そのシュートだったら入らないよね、って思うことはいっぱいあります。でも、そこで選手がどう動き出すかですよね。コーチと向かい合って、自分で解決しないと自分のものにはならないから、そこはグッと堪えてます。結局、当事者同士がぶつかり合わないと解決できないことが多いと思うので、本当に口は出さないですね。外から見たら、タクマさんなんにもしてねーな、って思うかもしれないですけど。自分で感じたことを人に尋ねたりとか、ぶつかって感情的になって、こうしよう、ああしようって思わないと人間としては成長できないと思うので、そういう場所を提供できないといけないな、と思っています。だから変な我慢は多いですよね。ひとこと言ってあげたいけど、やめよう、っていうのはすごく多いです。」
経験者による整理された助言が常に役立つとは限らず、むしろ若者の成長を妨げることも少なくない。
賢者は歴史に学ぶというが、ルールもスタイルも凄まじい勢いで移り変わる現代バスケットに過去の経験がいつまでも有用であると、果たして言い切れるだろうか。
新しい時代を自分の手で切り開いていく、その姿勢がなければひとかどのものには到底なり得ない。
「すぐに勝とうと思えばベテラン選手を優先的に取ることはできたと思いますが、僕としては選手同士で揉めるじゃないですけど、ぶつかり合って、選手としても人間としても成長してほしいんです。ネガティブな揉め方ではなく、本当によくなろうとしてのぶつかり合い。(ベテラン選手がスムーズに解決するのではなく)選手同士が揉めて、いやもっとこうしたい、ああしたい、という話があるのであれば、そっちを取りたい。それで彼らがもうちょっと年齢を重ねたときに、京都にとっても日本にとっても必要な選手として成長してくれれば一番いいと思っています。GMとしては目の前の結果も大事なんですけど、僕のスタイル的にはそこじゃなくて、彼らの将来にとっていい経験ができればと思うんです。」