「正直、広島時代はメインで試合に出てたわけでもないですし、ほぼ3番手のポイントガードという立ち位置で、昇格に関わるような上位チームとの試合はあまりプレータイムを貰えないシーズンでした。いろんな形で昇格に貢献できたのかもしれないですが、プレーオフはなかったですし、勝ち抜く難しさを経験したわけでもないので、今静岡でプレーしていて、昇格の経験をチームに還元しているというよりは、自分にできることをやっているという感覚です」
キャリア7シーズン目ではあるが、高卒でプロの世界に飛び込んだため、まだ25歳と山田は若手の部類に入る。それに対し、大石慎之介はbjリーグ時代の浜松・東三河フェニックス(現・三遠ネオフェニックス)でレギュラーシーズン西地区3位からリーグ制覇まで駆け上がった経験があり、加納誠也はライジングゼファーフクオカをB3から最短でB1まで昇格させた1人。山田がB2でのプレーやB1昇格といった自身の経験をあまり意識しないのは、他の誰も持っていない2人の経験値に敬意を払っているからだろう。
「経験を還元するという意味では、そういうところをチームに投げてくれているのが慎さんと誠也さん。上のリーグもプレーオフも経験して、それを若手の選手、戦い方を知らない僕らに伝えてくれているから、今チームとしてしっかり戦えているんじゃないかと思います」
繰り返しになるが、山田にとっては今回が初のプレーオフの舞台。リーグが初めてプレーオフ制度を導入した時点で、当然目標にしてきたことには違いないが、いざその舞台に立つとなれば緊張や不安に支配され、体が動かなくなってもおかしくない。しかし山田は、その舞台を「たぶん、勝ってるから言えることなんですが」と前置きした上で、「楽しめている」と言いきる。
「昨日のゲームも今日のゲームも本当に1プレーで流れが変わって、そこで相手に持っていかれれば追いつかれるし、逆に持ってこれれば追いつける、相手を引き離せる。1プレーの重みがレギュラーシーズンと全然違って、僕自身はその重みを楽しめてると思います。1プレーを大事にしなきゃいけないという感覚じゃなくて、大事にしつつも積極的にプレーすることでチームに流れを持ってくることができている。自分らしさを出して楽しめてると思います」
山田は「今日は僕が点数を取ってるように見えますが、チームでしっかりボールを回しながら戦うことができた」と、自身の活躍よりもチームとしての戦い方に勝因を見出し、「『僕がやらなきゃ』となってしまうとリズムが悪くなる」とチームファーストの姿勢を貫く。「僕の役割としては積極的にリングを狙うところ、ただそこだけだと思います」と言いきる山田の働きは、セミファイナルでも決して静岡には欠かすことができない。山田の口から「楽しめた」というフレーズが出てきたら、そのとき静岡はおそらくB2昇格を果たしているはずだ。
文・写真 吉川哲彦