中編「島根で芽生えた新しい感情」より続く
32歳のスポンジになりたい
谷口が初の日本フル代表としてコートに立ったのは昨年の2月26日、27日に開催されたワールドカップ2023アジア予選Window2(於・沖縄アリーナ)だ。2017年に一度代表候補に選出されたことはあるが、4年の時を経て再び声がかかるとは思ってもみなかった。メンバー入りを当時所属していた茨城ロボッツの社長から伝えられた瞬間、「えっ、ほんとに僕ですか?それ、間違っていませんか?」と聞き返したという。
「それぐらいびっくりしました。合宿に参加したときも初日はやっぱり緊張しましたねぇ。もうガッチガチですよ(笑)。ただトム(ホーバスHC)のバスケットはシンプルで、選手それぞれにやるべきことを明確に伝えてくれますし、とてもやりやすかったです。ストレッチ4(主にインサイド中心にプレーするパワーフォワードの選手をアウトサイドに据えることで相手ディフェンスを広げスペースを作る戦術)は今まで自分がやってきたプレースタイルなのですんなり入れましたね。トムに言われていた『チャンスがあったら打て!』も普段から自分が意識していることなので迷いはなかったです」
あらためてWindow2を振り返ってみると、谷口は2戦ともにスターティングメンバーとして出場し、1試合目のチャイニーズタイペイ戦(76-71で勝利)では1Qに2本の3ポイントシュートを沈めている。3本放ったシュートが外れてもひるむことなく打ち続ける姿勢が印象的だった。また、もう一つ注目されたのは「プロになって最長タイム」と本人が言う35.15分のプレータイムだ。続くオーストラリア戦(64-80で敗戦)はファウルトラブルもあって15分ほどにとどまったが、それまでのキャリアの平均プレータイムが11.3分だったことを考えると「30歳を超えて得た初めての経験」という言葉もうなずける。
「体力においてもメンタルにおいても貴重な経験をさせてもらったと思います。アメリカに渡ったときから目指し続けてきた自分のプレースタイルが時代を先取りしていたとは思いませんが、少なくとも間違いではなかった。それを再認識できたことが嬉しかったし、そんな自分をトムが見つけてくれたこと、チャンスを与えてくれたことにすごく感謝しています。とにかくめちゃくちゃ楽しかったです」
だが、日本代表で得たプレータイムも所属チームに戻れば再び減少する。リーグ全体を見れば谷口に限らず、有力な外国籍選手が居並ぶチームの中で自分の立ち位置に悩む日本のビッグマンは少なくないのではなかろうか。
「そうですね。それはあるかもしれません。それをどうやって乗り越えていけばいいのかを考えたとき、あたりまえかもしれないけど、やっぱりそれぞれ “自分が得意なもの” を身につけていくしかないと思うんですね。コンスタントになんでもできるというのも魅力かもしれませんが、それよりこれだけはずば抜けているというものを持つことが大事じゃないでしょうか。この場面、この時間帯には『あいつが必要』という存在になること。僕自身、より一層そうなれるよう努力している最中です。今年32歳ですから年齢的にはベテランと言われちゃうかもしれませんが、自分はまったくそう思ってないです。たとえば今の僕は島根では1年目の新米だし、年下の若い選手からポールのスタイルを学ぶこともたくさんあります。人生で言えばちょこっと先輩だけど、バスケでは関係ありません。どの選手の意見にも耳を貸すようにしたいな、自分の意見もちゃんと伝えられるようにしたいな、いろんなことをスポンジみたいに吸収していければいいなと思うんですね。32歳のスポンジになりたいです(笑)」