「言葉にすると難しいんですけど(笑)。まず島根のポール(ヘナレHC)は僕にしっかり役割を与えてくれるコーチなんですね。だから、今はプレータイムの長さに関係なく、コートに立った時間にその役割をきっちり果たしたい、やり遂げたいって気持ちがより強くなりました。これはあくまで僕の感覚なんですが、うちはエースのペリン(ビュフォード)が出たときに(ウィリアムス)ニカも出ていることが強みになると思うんです。言い換えれば、ペリンが出ているコートにはニカが必要なんです。だから、ニカは(勝負所の)4Qまでファウルトラブルに陥ってはならない。そうは言っても身体をぶつけてボールを競うポジションですからどうしてもファウルがこみやすくなりますよね。そうならないために前半だったり、3Qをつなぐのが僕の役割です。いかにうまくつなげるかが僕の課題であり、島根で僕が担うもの。もちろん、上手くできなかった試合もあって、そのときはすごく悔しいですけど、これまでプレータイムが少なくて味わった悔しさとは違います。どうしたらもっと(試合に)出られるんだろうと悩んでいたことと、短くても自分がコートに出た時間にどうしたらもっと上手くつなげるんだろうと悩むことは違う。こう、なんか今までとは違う悔しさだったり、悩みだったり、そういう感情が芽生えました。上手く伝わるかどうかわかりませんが、今はこういうことで悩める自分は幸せだなあと思っているんですよ」
なるほど。それがインタビューの最初に述べた「今自分がいる場所、そこでやるべきこと、成し遂げるものを見据え全力を尽くすというマインド」なのか。
「そうですね。コートの中だけじゃなく、外でも自分にできることをやり抜く。たとえばアメリカに行って良かったなあと思うことの1つに『英語が喋れるようになった』というのがあるんですけど、おかげで外国人のコーチや外国籍選手ともうまくコミュニケーションを取ることができます。それだけじゃなくて選手だけのミーティングのときは通訳もできます。スタッフがいない場所で僕が通訳するといつもよりみんなが本音で話せるじゃないですか。それもチームのために自分ができることの1つですよね。おまけに谷口大智の価値を高めてくれることにもなりますし(笑)」
谷口の “コートの外での活躍” それだけではない。たとえば2月4日、5日のホームゲームで発売されたスサノオマジックカラーのガンダムのプラモデル。告知も兼ねてYouTubeで組み立てのお手本を見せたのは谷口だった。201cmの頑強な体に似合わず、驚くほど手先が器用なのだ。また、取材日に着用していたパーカーにプリントされていた犬は山形銀行女子バスケットボール部の木林稚栄HCの愛犬をモデルに谷口がデザインしたもの。昔から絵を描いたり、キャラクターのデザインを考えるのも大好きで机に向かうとついつい時間を忘れるという。完成品のクオリティからすると谷口大智デザインの『スサノオマジックグッズ』が誕生する日も遠くないかもしれない。
「僕の座右の銘は “一石二鳥” なんですが、別にちゃっかりしているのではなく、どうせ何かをやるならみんなを巻き込んで楽しくやりたいと思うんですね。プラモデルにせよ、キャラクターのデザインにせよ、自分が好きなものを形にしてたくさんの人に喜んでもらえたら嬉しい。それがチームのためになればなお嬉しいんです」
『一石二鳥』 ── 口にすると笑われることもあるらしい谷口の座右の銘には32歳の “夢のカタチ” が詰まっている。
後編「32歳のスポンジになりたい」へ続く
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE