アドマイティスHCに限らず、遠い異国の地で受けている全てのサポートに対し、ボヤルキムの感謝の意は非常に強い。来日後、金沢で受けてきたサポートはもちろんのこと、アウェーの試合会場でも対戦相手の力添えで、日本に住むウクライナ人のコミュニティーと接する機会が用意されていたこともあった。今東京で受けているサポートも、ボヤルキムにとっては大切な支えだ。
「日本は本当に素晴らしい国で、周りの人がとても温かい印象があります。世界でトップ5のこの大都会でも温かいサポートをいただいていることには、感謝の気持ちでいっぱいです」
来日するまでのプロキャリアを一貫して祖国で過ごしてきたボヤルキムは、その大事な祖国への想いを常に心の片隅に置き続け、1年が経っても状況が好転しないことに心を痛める日々を送る。それでもなお、今与えられている環境に感謝し、自身が今果たすべき役割に強い気持ちで立ち向かっている。
「もちろんニュースは毎日チェックしていますし、暗いニュースや寂しいニュース、心が裂けるようなニュースばかりで、それを全く気にしないというのは難しいことです。でも、自分はプロのアスリート。朝起きても、家に帰っても、そういった苦しい気持ちを抱えながら自分は今プレーしているんだと思うことは正直ありますが、バスケットボールができるという幸せとミックスしてしまわないように、練習一つとっても体育館に入ったらマインドセットをしっかり切り替えて、自分の仕事に専念したいと思っています」
ボヤルキムが今自身に課している使命は、A東京の一員として戦う試合全てに勝利すること。現時点で全勝しており、「残りの試合も全て勝って、恩返ししたい」と意気込む。そしてもう1つの使命は、A東京で得た貴重な経験を金沢に持ち帰り、チームに還元すること。指揮を執る斎藤瑛アソシエイトHCがまだ24歳と若いこともあり、「コーチと腹を割って話し合い、この1カ月で学んだこと全てをチームに植えつけて、それで勝利することができたら本当に幸せなことです」とあらゆるものを金沢に捧げる決意だ。
2月18日からは、再び金沢の一員としてプレーする予定。オレクサンドル・アンティボ、ヤキブ・ティトブという2人の同胞も待っている。常に連絡は取り続けており、「離れているのは寂しいですが、いずれは帰る日が来て、また一緒にプレーするときが来る。この1カ月は自分にとって大事な宝物になるので、今はA東京でプレーする経験をしっかりとものにしていきたいです」と自らの使命に全精力を傾ける覚悟を示す。様々な感情が心に渦巻く中、ボヤルキムは感謝の気持ちを力に変え、勝利を追求し続ける。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE