昨年8月、金沢武士団が3人の外国籍選手の入団を発表したことはバスケット界で大きな話題となった。3人の国籍がウクライナだったからだ。
昨年初頭にロシアからの侵攻を受け、戦火にさらされたウクライナ。国民は死と隣り合わせの生活を強いられ、もちろんスポーツなどやっている場合ではない。そんな中、金沢が3人に手を差し伸べたことは、バスケット界の枠を飛び越えてもっと大々的に取り上げられても良いくらいだ。
自治体や日本財団などの支援を受けながらプレーする彼らは、金沢を蘇らせた。1勝49敗に終わった昨シーズンと比べると、10勝22敗(2月2日時点)という成績は劇的と言っていいほどの躍進。3人の加入がチームにとってプラスになっていることは間違いない。
そのうちの1人がこの度、B1でプレーする機会に恵まれた。ジャスティン・コブスの故障に見舞われたアルバルク東京が、イホール・ボヤルキムを1カ月間の期限付移籍でチームに迎え入れたのは1月19日のこと。ウクライナ代表でプレーした経験もある27歳のポイントガードは、既に20得点以上を5度、10アシスト以上も2度マークしている金沢のエース格の存在であり、同14日・15日には東京ユナイテッド戦に出場したばかりだった。わずか1カ月とはいえ金沢にとっては戦力面で大きな打撃になるが、クラブは快く送り出した。
金沢を離れてA東京に合流したボヤルキムは、すぐにアウェー広島ドラゴンフライズ戦に帯同。2試合で計20得点を挙げる活躍を見せ、自身の価値を証明してみせた。西地区首位に立っていた相手を2試合続けて3点差で破ったのは、ボヤルキムの働きによるところも少なからずあった。
翌週、A東京の一員としては初めてのホームゲームとなった新潟アルビレックスBB戦も、ボヤルキム自身は特筆すべきスタッツを残していないものの、チームは連勝。金沢だけでなく、A東京でもチームの救世主となっていると言って差し支えないだろう。
A東京からオファーがあったことを「率直に嬉しかったです。日本で一番のトップクラブだと思うので、この機会を与えていただいたことを光栄に思います」と語るボヤルキムは「B1でプレーできる自信はもちろんあります」とも言い、「スピード感やサイズの大きさには慣れる必要があるし、セットプレーやディフェンスのルールは一段階も二段階もレベルが上がっているので、そこにアジャストする対応力も大事になってきますが、日々練習と試合を重ねることで良くなっていると思います」とチームのレベルにフィットしているという感触も得ている。何より、「エンジョイしながら試合に出て、勝つこともできているので、本当に幸せです」とA東京でプレーすることに充実感があるようだ。
ボヤルキムにとっては、デイニアス・アドマイティスヘッドコーチの存在もプラスに働いている。リトアニア出身のアドマイティスHCとともに戦ったことはないが、以前から互いに存在を認識していたらしく、ボヤルキムは敬意を抱いている。
「彼は本当に素晴らしい、グレートコーチだと思います。お互いにヨーロッパ出身だし、彼がやりたいことはしっかりと伝わってきています。今私に起きていることは素晴らしい経験ですが、その中で自分の今までのキャリアで最も優れたコーチと知り合うこともできて、ともにバスケットができていることは嬉しいです。常にコミュニケーションを取りながら、いろいろな面でサポートを受けていて、本当に感謝していますし、楽しいです」