能力の輪(中編)より続く
2020-21シーズン。
仙台89ERSはチャンピオンシップセミファイナルで敗退、B1昇格を惜しくも逃した。
シーズン終了後、新たにヘッドコーチに就任した藤田弘輝だったが、悲願達成に向けた順風満帆のスタートとはいかなかった。
「外国籍選手が3人全員入れ替わったことと、前のシーズンで主にピックアンドロールを使っていた笹倉くん(笹倉怜寿)もアルバルク東京に戻ってしまったこと。それが大きなポイントでしたね。けっこう大変でした。コロナ禍の影響があって、海外からの入国制限があったんです。僕が加入して1週間後にはもう外国籍選手を決めなければいけなかったので、急いで進めました。」
チーム構成が勝敗に直結するのは言うまでもない。
選手が多く入れ替われば、それだけチームの成熟にも時間を要する。
難しい状況ではあったが、初めてヘッドコーチを任されたあのときとは比べようもない。
それに藤田の頭の中には、仙台を前に進めるためのイメージがすでにあった。
「大きく言えば、守備でもう少し高い位置からボールを捉えてディフェンスの強度を上げたほうがいいと思いました。それが個人的にも好きなバスケットなので、そこを重視しました。
オフェンスは、スペーシングですかね。誰がどこにいて、このスペーシングはこういう意図を持ってアタックしましょうといったことです。抽象性と具体性のバランスをどう求めていくかというのを個人的にテーマとしています。前のシーズンの仙台のオフェンスはちょっと抽象的な印象だったので、もう少し具体的なオフェンスのスペーシングを、具体的になりすぎずに取り組みました。例えば、ハイピックのあと(ビッグマンが)ポップしたり、ポケットに入ったり、ダイブしたりとしていたところを、まずはこのスペーシングだと、ここが空いてるから積極的にアタックしましょう、というのを選手のみんなに話しました。そこから相手のディフェンスがアンダーしてきたり、ハードショウしてきたり、スイッチしてきたりがあれば、そこからの枝分かれが出てきます。そういうときにはそれぞれこういう意図を持ってオフェンスしましょう、というのを少しずつやっていった感覚です。」
Bリーグ発足以来、様々な災厄が仙台に降りかかった。
B2降格、経営体制の変更、地区首位ながらコロナ禍によるリーグ中断。
それらを乗り越え、着々と体力を蓄えてきたチームの「あと一歩」を藤田は引き出し、仙台をもといた場所に連れ戻した。
「最終的にはけが人も戻ってきて、チームが自分たちのやっているバスケットに自信を持つようになったと感じました。オフェンスで90点取るようなチームではなく、ディフェンスを頑張って少しずつ相手との差を広げていくスタイルに。最後のチャンピオンシップではゲーム3が2回続いたんですが、我慢の必要な展開が続く中でチームがファイトし続けてくれたのは、1年間みんなが取り組んでくれた成果かなと思っています。」