しかし『ヘッドコーチ』は、藤田が持つ能力の輪の内側にあった。
コーチを志す大多数が疎む状況を、彼は立て直して見せた。
前ヘッドコーチが解雇されるまでは3勝17敗(勝率0.15)だったチームが、藤田の就任以降は10勝22敗(勝率0.31)。シーズン終盤の3月は5勝5敗の5割にまでチームを上向かせ、その当時東地区首位だった秋田ノーザンハピネッツからも勝利を挙げた。(とWikipediaに書いてあった)
その後もヘッドコーチとして各所で才覚を発揮する。2020-21シーズンは琉球ゴールデンキングスをBリーグセミファイナルに、2021-22シーズンは仙台89ERSをB1昇格へと導いた。
アシスタントコーチとして積み上げることはできなかった。だが準備の怠りはなかった。プロ選手、そして学生時代の挫折が彼に能力を与えた。
選手だった自分への絶望はあったが、情熱は変わっていない。
ひたすらにアップデートを続ける姿勢は、選手のころのままだ。
「今はこれを読んでいます。『エクストリームオーナーシップ(Jocko Willink、Leif Babin著)』という本。元ネイビーシール、アメリカの海軍特殊部隊でリーダーをしていた方が書いたもので、なんでも自分が責任を取る、というリーダーのスタイルについて紹介しています。例えばコーチの視点からすると、選手がなにかミスをしたときに、その選手に『なんでそうなったんだ、お前のせいだ』って怒るのではなくて、自分のせいだっていうスタンスを常に持っている。自信がある、ない、じゃなくて、『自分がちゃんと説明できなかったんじゃないかな』っていう思考から入るのがいい組織を作るリーダーのキーだという考え方です。それをいろんなビジネスのシチュエーションで例示してくれています。とても勉強になる本で、いますごくいいなって思っているところです。」
そして、わけても一人のコーチが、彼に強い影響を与えた。
「S級ライセンスの講習は僕にとって大きかったです。ルカさん(ルカ・パヴィチェヴィッチ)が講師として来てくれたんですが、細かいところを何時間もかけて、ピックアンドロールの攻め方だったりを話してくれました。それを聞いて、『あ、ここまで整理している方がいるんだ』と勉強になりました。講習が1週間くらいあって、例えばピックアンドロールでスイッチされたときの攻め方だけを2時間くらい喋るんですよ。そんなにディテールがあるんだ、という感じの衝撃的な講習でした。
じゃあ自分は同じように1から100まで具体的にやりたいかどうかは別の話として、でもそこまで情報があるんだっていうのは目からウロコでした。すごく勉強になりましたし、いいタイミングだったと思います。
本当にルカさんはバスケット界にとって、すごく大きな人物だったと思っています。」
能力の輪(後編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE