上手くなりたくない選手はいない。勝ちたくない選手はいない。バスケット選手である以上、誰もが上を目指す。少しでも高いところを望む。なにかに心を折られて、一時的に現状維持に甘んじることはあれど、「いま優勝できますけど、どうします?」と聞かれて「いや、遠慮しときます」と断るものはいないだろう。
選手の欲求に寄り添い手助けをする藤田。しかし属する環境の設定については慎重になるべきだと考えている。闇雲に目線を上げるだけでなく、足元の位置を確かめることが自分を最大限に向上させる助けになる。
「高校と大学での自分の選択に後悔はしてないです。本当にすべての経験が良かったなと思えています。でも、今振り返ってみて少し考えるのは、ディビジョン3の大学からもオファーがあったことなんです。奨学金もなくて金銭的にも大変ですし、レベルが全体的に落ちてしまうんですけど、いま思うといい大学だったんですよ。バスケットをちゃんとやる大学で、システマチックに頭を使ってプレーするチームだったので、自分の能力に合っていたんじゃないかと思います。もしかしたら、そのときそっちを選択していたら、ちょっと違ったのかなとすごく思ってますね。なんでそんなにディビジョン1に拘ってたんだろう、とも思います。それが一番高いレベルだからそこを目指すべき、みたいな感じで、ずっとなんとなく目指していたんですけどね。」
『最も重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです』
桑原晃弥. ウォーレン・バフェット 成功の名語録. PHPビジネス新書, 2012
志を高く持つことは、ともすれば自分を省みることを忘れさせる。能力の輪から出た場所で勝負する行為は挑戦か無謀か。その境界はあまりに曖昧だ。
「海外に挑戦をしたいという意志のあるBリーガーもどんどん出てきていると聞きますし、素晴らしいことだと思っています。そこで、じゃあどういう環境へ行くのか、というのは面白いテーマですよね。NBAを目指すのか、Gリーグに行くのか。ヨーロッパのトップリーグを目指すのか、2部へ行くのか。例えばヨーロッパの1部リーグでやりたかった場合、その機会を得られるかどうかも難しい問題です。僕はコーチをしているので、選手が移籍する流れは理解しています。外国籍選手を決めるときは、代理人と話をして、選手のプレーを見て、チームのプラスになると思えばその選手を獲得します。じゃあ客観的に逆の立場を考えたときに、イタリアのトップチームが日本のリーグで10点くらいアベレージしてる選手を見て、獲得するメリットはなにがあるだろうかと想像すると思うんです。そう考えると、行くこと自体がまず厳しいとは思っていますね。そうなれば、可能性としては2部や3部でプレーすることを模索すると思うのですが、でも国によっては下部リーグでプレーするよりもBリーグのほうがレベルが高いんじゃないかとも思います。
その選手の価値観によるところでもありますが、ただ海外に行きたいから行くという考えに囚われすぎないほうがいいと思います。誰かがアドバイスできる環境があったほうが、若いタレントが無駄にならないで済むんじゃないでしょうか。そこは日本のバスケットが考えるべきポイントかもしれないですね。」
能力の輪(中編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE