相手にシュートを決められたあと、下を向くことなくすぐさま切り替えてオフェンスに向かう。スピーディーかつアグレッシブなバスケスタイルが特徴であり、「それはもう絶対的にうちが大事にしている部分です」と前田ヘッドコーチは徹底させていた。
「切り替えに関しては時間をはじめ、細かく分析して練習に取り入れています。例えば、何秒でハーフコートを越えるかという時間も大事にしています。それが、決められた後の切り替えの速さにもつながっています。また、ボールを運ぶ選手が決まっているわけではないし、それを指示したこともありません。ボールに近い選手がなるべく速くハーフコートまで持っていくようにしか言ってません。パワーフォワードのマット・ボンズだってボールを運びますし、それは意図してやっています」
ヴェルカスタイルでチームを強化し、B2優勝そして最速でのB1昇格が今シーズンの目標である。だが、前田ヘッドコーチはさらなる高みを目指していた。
「私自身が長崎に来たときに思い描いていたのは、ただ昇格するのではなく、B1で優勝すること。さらに、今のBリーグの環境ではB1で優勝すると、東アジアやアジアのクラブ大会に出場でき、そこで優勝するチャンスもあります。このチームが優勝にたどり着いたときに長崎の街がどうなるのか、それを常に考えています。もちろん今シーズンの目標はありますが、このクラブをとにかく上のステージへ持っていき、目指すことができる一番高いところへ連れて行く。それによって長崎の皆さんの喜ぶ顔が見たいですし、クラブを取り巻く人たちに最高の景色をお見せしたいと考えています。ルーキーヘッドコーチが何を偉そうなこと言ってるんだと思われるでしょうけど、それが長崎にチャレンジしに来た一番の理由ですし、私がヘッドコーチになって目指したいところです」
高い志を持つ前田ヘッドコーチのここまでの評価を聞けば、「全く満足していないですね」と即答。思い描いているようにいかない日々が続く。「この数カ月でもっとチームを成長できたんじゃないか、もっといい成績にできたんじゃないかと思うことばかりです」と後悔の念に駆られ、毎日のように頭を悩ませている。
大阪出身の前田ヘッドコーチにとって、長崎は縁もゆかりもなかった。しかし、住んでみれば「もう最高ですね」と癒やされ、長崎に活力をもらっている。
「時間がゆっくり流れているような感覚があり、すごく住みやすいなと思います。なんといっても自然が素晴らしく、ご飯がおいしい! オフシーズンにはいろいろ長崎県内を回りましたが、まだまだ行きたいところはたくさんあります。それぐらい魅力的なところがいっぱいです」
長崎ヴェルカ 前田健滋朗ヘッドコーチ
ヴェルカスタイルを道標に高みを目指すルーキーヘッドコーチ
前編 ヘッドコーチ業とは「方向性と決断。そして人を動かすマネジメント」
中編 長崎ヴェルカが誇る日本一のスタッフ陣
後編 「ルーキーヘッドコーチが何を偉そうなこと言ってるんだと思われるでしょうけど…」
文 泉誠一
写真 B.LEAGUE