岩下英樹社長と伊藤GMが目指すべきフィロソフィーやコンセプトを掲げ、それに賛同するスタッフが集まった。目指すべきチーム像に対し、「それに見合った選手を集めているのではないか」という印象を持っていたのが、アルティーリ千葉のアンドレ・レマニスヘッドコーチである。そのとおり、「最初にクラブとしての方向性が決まり、それに沿ったスタッフや選手たちが集まったからこそ、しっかり表現できているんだと思います」と前田ヘッドコーチは肯定する。
2021年1月1日、契約選手第1号となった松本健児リオン。西宮ストークス、バンビシャス奈良を経て、B3からスタートする新天地に迎えられた。前田ヘッドコーチと同じ、北陸高校出身。4歳年下の松本だが、「同じ寮に住んでいました。彼はまだ中学生でしたが、そのときから知っていました」という間柄。前田ヘッドコーチも松本も、名門北陸高校でバリバリ試合に出ていたわけではない。それでもあきらめることなく成長し続けた松本に対し、「良い意味でえらい変わりようでびっくりしています」と前田ヘッドコーチは認め、先発を任せている。
目を見張る成長を遂げた松本であり、2年目の榎田拓真や特別指定の山崎凜など若手も積極的に起用している。しかし、前田ヘッドコーチは「育成については考えていませんし、彼らにプレータイムを与えようという思いも一切ありません」と明言。すべては選手自身が、練習でアピールしてきた賜物だった。
「練習は正直言って結構きついです。でも、しっかり練習できているからこそ、プレータイムが短い日や長い日でも全く関係なく同じようにパフォーマンスができています。例えば、『今日は練習しない』というような選手が出てくることも全くないので、毎回みんながコートに立ってパフォーマンスする機会も十分に取れています。育成ではなく、チームにとってプラスになるという確信があるからこそ、選手たちにプレータイムを与えている状況です。もちろん若い選手たちはミスすることもありますが、それを反省しながら少しずつ自分ができることを見つけ、そのためにハードワークし続けてくれています。それが選手の成長になり、チームの成功につながってくると思っています」
唯一長崎県出身である髙比良寛治。記者会見では「長崎のために ──」 と常に発言し、地元を背負ってチームを引っ張るキャプテンだ。「長崎への思いが誰よりも強いというのは絶対的にありました。彼もハードワークをしますし、選手もスタッフも関係なく人と人をつなぐのがすごく得意な選手です。そこも魅力であり、全員一致でキャプテンを任せようという声を集約し、私が最終的にはお願いしました」というのが就任経緯である。
髙比良だけではなく、長崎に縁のなかった選手とスタッフも一丸となって、バスケットを通して「今を生きる楽しさ」を広げていく。それがクラブの理念でもある。
後編「ルーキーヘッドコーチが何を偉そうなこと言ってるんだと思われるでしょうけど…」へ続く
文 泉誠一
写真 B.LEAGUE