「ひとつは、チームの方向性を決めていくのがヘッドコーチの大事な仕事だと思っています。私が方向性を示さないと、チームはどこに行けば良いかわからなくなってしまいます。方向性とそのための決断をしなければいけない点が大きな違いです。もうひとつは、チームは人の集まりであり、やはりマネジメントが大事になります。いろんなスタッフや選手と話をしながら進めていかなければ、うまくいかないことを痛感しています。正しいことだけを言っても、チームと人が動くものではありません。どうやってチームを動かしていくか、どうすれば一人ひとりを同じ方向に持っていくかということは常に考えています」
ヘッドコーチの鶴の一声で選手が動くわけではなく、それで勝てるわけでもない。「仕事をしろと言われても、睡眠時間3時間だったとか、いや働きすぎでしょ、とそれぞれ意見や違う状況があります。もちろん社会人として働かなければいけないですが、他にもいろいろ考える要素があり、ただ仕事をしろと言われても難しい場合も往々にしてあると思います」と会社に例えて説明する前田ヘッドコーチ。意に沿って人を動かすことは容易ではない。そこで前田ヘッドコーチは、「こちらの意見をただ押し付けるだけでもダメ。選手たちの意見も尊重して進めていかなければ、別の場面でうまくいかないことが起きてしまいます。なので、こちらが指示を伝えつつ、選手たちの意見も聞き、時にはそれを実際に試しながら一緒に前へ進んでいる感じです」とコミュニケーションを大事にし、丁寧なコーチングを心がける。「コート上で見えていることや、私があまりフォーカスできてないところに対して気づいたことを教えてくれるので、そこは助かっています」という選手たちからのアドバイスによって、ヘッドコーチ自身も成長につなげていた。
B1経験があるベテラン選手たちは、昨シーズンからコーチのように若いチームにすべてを還元している。前田ヘッドコーチも手本となる彼らに感謝するとともに、プレー面では常に驚かされている。
「一番すごいなと思うのが、ぶっちゃけヴェルカのバスケットはきついじゃないですか。フルコートで走るアップテンポなスタイルは、ベテランの彼らにしてはやはりきついとは思うんです。特に41歳の(ジェフ)ギブスや野口(大介)さん(39歳)など年齢が高いですけど全く不満を見せず、このスタイルにアジャストしよう、常に向上させようと努力し続けてくれています。そこは本当にすごいなと思っていますし、ありがたいです」
長崎にただプロチームを作ったわけではない。長崎が誇る強いチームにすることが使命であり、そのための選手やスタッフ集めから土台を固め、実直に歩んでいることがうかがえる。
中編「長崎ヴェルカが誇る日本一のスタッフ陣」へ続く
文 泉誠一
写真 B.LEAGUE